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禍い物  作者: 青野 乃蒼
あかつきエレファント

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4/5

あかつきエレファント 其ノ參①

「ふぇっ!」


心臓が止まった。


いや、マジで。


すぐに動き始めたけど。



僕は驚いて反射的に両手を上げながら、膝から崩れ落ちた。


まるでイスラム教徒が神に祈りを捧げているような、それはそれは美しい流れからの土下座だった。



「くっ……はは。驚きすぎじゃろ、貴様」



心臓がうるさい。

エンジンが唸るように、バクバクと鳴っている。


僕は荒い呼吸をしながらゆるゆると顔を上げ、女性に顔を向ける。


彼女は、小馬鹿にしたような、嘲るような笑みを浮かべていた。


でも僕は、そんなことは気にならなかった。


どうでもよかった。


僕の耳元で彼女の声を聞くまで、僕は彼女に全く気づかなかった。


普段よりは警戒心を持っていたというのに、足音一つ聞こえなかった。


気配というものをまるで感じなかった。



「鳩がショットガンで撃たれたみたいな顔じゃな」


「どんな顔だよ!」


つい、突っ込んでしまった。


「おぉ、ようやく喋ったか。あまりにも驚いとるようじゃから、確かそんなことわざがあったような気がしての」


ねーよ、そんなことわざ。どんな覚え方してんだ。

鳩がショットガンで撃たれたら瞬殺だろ。


でもおかげで、正気に戻りつつある。

呼吸もだいぶ落ち着いてきた。



「ところで青年、夜更けにこんなところへ、何しに来たのじゃ?」



平静を取り戻したところで、僕は改めて彼女を見る。


つり目が鋭く見えてしまうが、かなり整った顔立ちをしている。

年は二十代後半といったところだろうか。


西洋人のような見事な金色の髪をしているが、頭頂部には黒色が広がっていて、染めていることが分かる。分かりやすく言えば、プリンみたいな頭髪だ。


服装はと言えば、白衣に緋袴というまさに巫女の格好をしている。


曲がりなりにも神社であるこの場所の性質上、巫女の姿をしていることは全くもって相応だ。


けれどここは、実質神社跡と言うべきであって、そんなところに巫女がいるはずもない。


だとすれば、彼女は巫女ではなく、巫女のコスプレをした女性ということであり、夜中に巫女のコスプレをして神社跡に赴いたということになる。


これには違和感を禁じ得ない。


加えて、和服にプリン頭はミスマッチも甚だしい。

外国人観光客が思い出作りに着てみた感がハンパない。


その上、あえてなのか知らないけれど、着崩して胸元がはだけているので、遊女のような雰囲気も醸している。


とどのつまり、各所の主張が強すぎて、多国籍料理――というか闇鍋みたいな仕上がりで、女性を評するには失礼極まりないけれど、不安と不審しか感じなかった。



「……ただの散歩ですけど」


「そうか、ただの散歩か。して貴様、(わし)の全身を舐め回すように見ておったが、感想はないのか?」



バレてる。


まぁ、女性って視線に敏感だって言うし。


つくづく思うけど、こういう時って何て言うのが正解なんだろうな。


『不安と不審しか感じません!』って本音を言うのは違うだろうし。


『いい体してますね』とかベタだけど、これも絶対違うよな。


経験の少ない僕には、まるで分からない。

誰か教えてほしいくらいだ。


学校って何のためにあるんだろうな。


学生時代以外で使うことは皆無であろう、難解な公式やら作者の気持ちやら、線上を動く点Pではなく、もっと実用的な、変化の激しい現代を生きやすくなるような、処世術をこそ教えて欲しいものだ。

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