このはフロッグ 其ノ終①
翌日(帰宅した時には日付が替わっていたので、正確には当日)。
十六時頃、火曜日、平日。
僕はまたしても、学校帰りに例の公園に寄った。
例の公園へ、霊のこのはちゃんに会いに行った。
そして今日も今日とてこのはちゃんは、霊の蛙よろしく例の蛙のパーカーを着て、隅っこに蹲っていた。
「このはちゃーん!」
今日は絶対に驚かせまいと、彼女から遠く離れた道路から、彼女の名前を呼んだ。
僕の声に反応したこのはちゃんは、のっそりと首を後ろに回した。
僕を視認したのか、これまたのっそりとした動きで手を挙げる。
僕はそれから、このはちゃんの元へ歩み寄った。
「やぁ、このはちゃん」
「性懲りもなくまた来たん、愚兄ちゃん」
開口一番、辛辣アクセル全開だなー。
初っ端からそんなに飛ばして大丈夫かい?
「とりあえず愚兄ちゃんはもうやめてよ」
「仕方ないん、汚兄ちゃん」
「待って待って。今ちょっと悪意を感じたんだけど」
「ん? 気のせいなん。このは、ちゃんと汚兄ちゃんって言ってるん」
「いや、確かに発音は合ってるんだけどね。何かこう、僕が汚らわしいみたいな感じに聞こえるんだよ」
「いちいちうるさいん。細かいん。もっと広い心で大きな器じゃないとモテないん、お兄ちゃん」
僕よりも人生経験の少ない少女にまでモテないって言われる僕って、どうなんだよ。
とりあえず僕の呼称が元に戻ったみたいだからいいんだけどさ。
「それで、今日は今日で何をしにきたん? お兄ちゃん」
「あぁ、うん。えっと、確かめに来たって感じかな」
「確かめる? 何をなん」
本当にこのはちゃんが幽霊なのかどうか――とは言いにくい。
彼女は霊の力を認識している、というのは魅子の言だが、それが正しければ当然、自身が霊であることを認識しているということに他ならないのだが、やはり面と向かってとなると、抵抗感は拭えない。
これまでに何度か彼女には触れているので今更確認するまでもないのだけれど、知ってと知らずとでは違うものがある。
今一度確かめたい。
僕はそっと、このはちゃんに触れた。
「お兄ちゃん、何でこのはの胸を触ってるん?」
「確かめるためだよ」
「これは検める必要があるん」
「違う! それは誤解だ! 僕は別に、少女の平らかな胸の感触を確かめていたわけじゃないんだ!」
「少女は平らかで当たり前なん。あえて平らかと言う必要はないん。デリカシーの欠片もないん。愚兄ちゃん、このままだとこのは、エマージェンシーをかけることになるん」
また愚兄ちゃんに戻っちゃったよ……。
って、エマージェンシー!
それはあれか、あれだよな、ポリスオフィサーを呼ぶってことだよな!
それはマズい!
マズィー!
「だから違うんだって! 僕はただ、このはちゃんに触れるかどうかを、心臓が波打ってるかどうかを、確認したかっただけなんだ!」
「ん? 何でそんなことをする必要があるん?」
「それは……」
これはもう言うしかないだろう。
僕は意を決して、口にする。
「このはちゃんが本当に……幽霊、なのかどうかを、確かめたかったんだよ」
「そんなことだったん。それならそうと、早く言えばいいん。このはは幽霊なん――優麗な幽霊なん、むふん」
このはちゃんはあっさりと、はっきりと、きっぱりと、言った。
自慢気に、得意気に答えた。
即答した。
最後、言い直す必要はなかったと思うが。
「……あれ、おかしいな。思ってた反応とちょっと違うんだけど。もっと、何かこう、しまった! とか、バレちゃったか……、みたいなそういう感じだと思ってたんだけど」
「このはは別に、このはが幽霊だってことを隠してないん。幽霊だから後ろめたいなんてこともないし、やましいこともないん。だから幽霊なのがバレても平気なん」
だそうだ。
気ぃ遣って損したわ。
けどまぁ、このはちゃんの言質は取れたわけだし、これで彼女が幽霊である確証は得られた。
このはちゃんは、幽霊なのだ。




