このはフロッグ 其ノ玖④
「でも、本当に祓わなくていいのか? いや別に祓って欲しいわけじゃ一切ないんだけど、むしろ祓って欲しくはないんだけど、でも、また僕みたいな被害者が出るかもしれないだろ?」
「んー、まぁ否定は出来んがの。可能性がゼロではない限り、可能性は可能性としてあり続けるからの。じゃが、触らぬ神に祟りなしと言う言葉を引用すると、やつは『基本的には触っても祟りのない霊』なんじゃ」
「いやでも――」
「そう慌てるな。儂は『基本的には』と言うたんじゃ。つまり、基本から逸脱すれば祟られる――被害に遭うということじゃ」
「つまり僕は、このはちゃんに会う度に、その基本ってやつを逸脱してたってことか?」
「そういうことじゃ。貴様、そやつに会う時、何かそやつの心が急に大きく揺らぐようなことをせんかったか? 例えば、泣かせるとか、驚かせる――とかの」
僕は身に覚えがあった。
ありすぎた。
初日は不可抗力だったが、二日目と三日目は意図的だった。
それに三日目である今日は、あからさまで悪質だった。
「心当たりは、あります……」
「まさか少女を泣かせるとは、貴様どんな鬼畜じゃ」
「何で泣かせるに即決なんだよ! 決めつけんな! 僕は少女を愛することはあっても、泣かせたりなんかしない! 三日とも驚かせちまったんだよ」
「なるほど、ロリコンらしい、ロリ整然とした言い分じゃな。異ロリはない」
「僕はロリコンじゃない。殊更にロリを使って煽るな」
お前の方は理路整然どころかロリの多用で雑然としてるし、異論しかないわ。
「そうじゃった。貴様は一生独りじゃから、そもそも離婚出来んよの。ロンリーコンじゃの」
ロンリーコンって何だよ。
孤独と結ばれたところで何も変わんねーじゃねーか。
ってか、そもそもロリコンの『コン』は『婚』じゃねーんだよ。
「……で、このはちゃんを驚かせたから、このはちゃんは蛙の力を使って、僕を怪奇現象に遭わせたってことか」
「端的に言えばそうじゃが、正確を期すなら、『蛙の力を使った』のではなくて、『蛙の力が発動した』が正しいの。つまり、意図的ではないんじゃ。そこにそやつの意志はなく、言ってしまえば、反射的に力が発動してしまうんじゃ」
霊の力も万能ではないからの、と魅子は補足のようなことを言った。
今日、冗談かもしれないけれど、このはちゃんから面と向かって『迷惑』だと言われた手前、怪奇現象が意図的に引き起こされていたわけではないと知れたのは、せめてもの救いだった。
もし意図的だったとしたら、きっと僕はもう二度と、例の公園に足を向けることはなかっただろう。
「じゃあ、何を反転させるのかっていうのも――」
「そうじゃろうの。その点に関しては儂も情報不足なんじゃが、発動が意図したものでない以上、反転の対象もまた然りじゃろう」
それはそうだろう。
発動タイミングがランダムということは、とりもなおさず引き金を引く者――対象者もまたランダムだと言うことだ。
それでは復讐や報復の類で力を使うというのは困難を極める。
ならば逆にと、対象者を指定しなくていいとする自身の愉悦を目的としたケースもパターンとしてはあるが、あるにはあるが、発動タイミングが読めないうえに発動条件が高いという点において、趣味のように興じるというのは難しいように感じる。
一例を挙げるなら、その辺の山で宝石を掘り当てようとするようなもの、だろうか。
だが彼女の場合、現地に赴く――僕が怪奇現象に右往左往、四苦八苦する瞬間を目の当たりにするということはなかったと思う。
三日目は発生場所が転々としているので分からないが、少なくとも二日目の本屋にはいなかったと断言出来る。
愉悦目的なのに、事が起こっている現場に居合わせないというのは、果たして有り得るのだろうか。
先ほどの宝石採掘の例で言えば、自分でひたすら山を掘削したのに、宝石があると見るや、他人にその場所を譲るような感じだろうか。
そんなトレジャーハンター存在するか?
答えは――否である。
結論。
色々と検討はしたものの、力の性質上、反転させる対象を選ぶ必要がないため、対象を選ぶことが出来るという可能性は低いだろう。
と、ここまで無駄に長文で僕の思考を垂れ流しておきながら卓袱台を返すようで恐縮だが、所詮は可能性だし、もっと言えば僕が検討したことは必要性の話であって、対象を選べないことを立証する証拠には、悲しい哉、何一つなっていないのである。
とは言え、必要性がないことは十分証明出来たと思うので、対象選択の能否は正直どちらでもいい。
だって、選べても仕方がないのだから。
ただ、反転させる対象は選べないにしても、なんとなく、その力の強さと動揺度合いは比例しているように思う。
初日の着衣裏返しはおふざけみたいなレベルだったけれど、僕が意志を持った二日目は怪奇度が跳ね上がったし、今日に至っては逆禁固刑のようなもので、二日目とは違って逃げ道もなかったのだから。




