このはフロッグ 其ノ陸①
翌日、月曜日。
僕は学校帰りに、またしても例の公園へ寄った。
帰り道に公園があるわけではないので、寄ったという表現が正しいのかは微妙なところなのだけれど、とにかく寄った。
このはちゃんに会いたい――という明確な意志があってのことではない。
それでは、本当にロリコンになってしまうしな。
ただ単に、土日は両日とも例の公園にいたので、もしかしたら平日もいるのでは? となんとなく興味が湧いたのだ。
帰宅部エース(?)である僕としては暇を持て余しているので、ちょっと寄り道するぐらいのことは造作もない。
それに、もしこのはちゃんがいたとしたら、楽しい雑談に興じれることになるのでめっけものなのだ。
さぁて、今日はいるのかなー。
と、広い敷地を見渡してみると――。
「あ、いた」
今日もいた。
三日連続いた。
もしかすると、このはちゃんとしては三日連続どころではないのかもしれないけれど、今日も今日とて、隅っこで蹲っていた。
もちろん、蛙の格好で。
まさか本当にいるとは。
よっぽどこの場所が好きなんだろうか。
しかし、このはちゃんは毎日何をしているんだろう。
この前は『誰かが声を掛けてくるまでじっと待つっていう遊び』とか言ってたけど、それはさすがに冗談として、遊具も何もない空き地で一人だと何もすることがないと思うんだけどな。
案外、日向ぼっことかだったりして。
それはさすがにシュールすぎるか。
このはちゃんに歩み寄っていく最中、僕の中に潜む意地悪な悪魔が囁いてきた。
驚かせようぜ――と。
僕とこのはちゃんは、これで三日連続の対面となる。
カレーは二日目が美味しいというのはもはや常識だが、さすがに三日連続ともなると食傷気味になるし、ちょっとした味変が欲しいところだ。
つまりはそういうこと。
僕の声掛けにも、変化が必要なのだ。
そして変化というものは、時として大胆にやらなければならない。
僕は息を潜め、抜き足差し足忍び足でこのはちゃんの背後にそっと近づいて――。
「わあっ!」
と、それなりに大きな声を、このはちゃんに浴びせた。
その瞬間、このはちゃんの肩がビクッと跳ね上がった――のだが。
それからこのはちゃんはピクリとも動かなくなった。
声すらも発しない。
「あ、あれ……? このはちゃん……?」
不思議に思った僕は、このはちゃんの肩へと手を伸ばす。
だがしかし、僕の手は空を切った。
僕の手がこのはちゃんの肩に触れる寸前で、このはちゃんは受け身を取ることなく、前のめりに倒れた。
「このはちゃんっ!」
僕はすぐさまこのはちゃんの肩を掴み、体を仰向けにさせる。
このはちゃんは目を閉じたまま、ピクリとも動かない。
「え、死んだ? 死んだのか? 噓だろ、マジかよ!」
僕は必死でこのはちゃんの肩を揺する。
こういう場合、脳にダメージを与えないよう揺すらないのが正しいのだろうけれど、僕にそんな余裕は微塵もなかった。
「このはちゃん! このはちゃん! おい! しっかりしろ! このはちゃん!」
どれだけ揺すっても、このはちゃんは全く反応を見せない。
マジかよ。
マジかよ、マジかよマジかよマジかよ。
ホントに死んじまったのか?
僕が殺しちまったのか?
そんな、そんな馬鹿な。
ほんの出来心だったんだ。
このはちゃんの反応が面白かったから、故意に驚かせたらどんな反応するんだろうって、そんな軽い気持ちだったんだ。
まさか、ちょっと驚かせただけでショック死するなんて……。
――いや、待て。
まだ死んだかどうかは分からないだろ。
勝手に殺すな。
まずは脈を確認するんだ。
僕はこのはちゃんの首元に右手を伸ばす。
首筋に手を当てて、脈を確認する。
「脈がない!」
僕の指先が、脈動によって震えることはなかった。
ヤバい! 心臓が止まってやがる!
早く心肺蘇生しないと。
確か、心停止してからものの数分で生存率が半減するとかだったよな。
急げ! 時間がない!
僕は心臓マッサージをしようと、このはちゃんが着ているパーカーのジッパーを下ろし、彼女の胸の中心辺りに、僕の重ねた両手を構える。
そして僕は、全体重を手の甲一点に集中させるように力を込めようとした――その時だった。
「な……なん」
僕はすぐに声のした方へ顔を向ける。
声の主――このはちゃんは目を覚ましていた。
「このはちゃん!」
良かったああああぁぁぁぁーーーーーー。
このはちゃんが生き返ってくれた。
これで僕は人殺しにならずに済んだんだ。
いやー、本当に良かった。




