このはフロッグ 其ノ伍②
「媛野、ありがとう。本当に助かった」
「どういたしまして。親友だから、当然ではあるけどね」
「冗談抜きで、助かった。やっぱ媛野は神友だ」
「あはは、いざ言われる立場になると面映ゆいものがあるね。けど、そこまで難しい問題でもなかったよ」
マジかよ。
媛野にとってそこまで難しくない問題に、僕は危うく命を奪われるところだったんだけどな。
さっきは媛野を賞賛したが、実は単に僕が馬鹿だという可能性もありそうだ。
「……そうか。それじゃあ種明かししてくれよ。どんなトリックだったんだ?」
「いや、トリックって言うにはちょっと大袈裟かな。どっちかって言うと、なぞなぞだと思う」
どうやら僕が馬鹿だったようだ。
それで、と僕は媛野の先を促した。
「実践してもらった通りだけど、反転してたんだよ」
「反転?」
「そう、反転。階段を上がったら階下へ、階段を下りたら階上へ、そういう仕組みになってたってこと」
「じゃあ一階と四階はどうなんだよ。一階から二階へはすんなり上がれたし、四階から三階もすんなり下りれたぞ?」
「あぁ、それは反転できないからだよ」
「反転できない?」
「そう、だってその本屋さんに地下はないんでしょ? 四階が最上階だから、四階より上はないんでしょ? だったら反転しようにも反転できないよ」
なるほど、そういうことだったのか。
だから僕は、四階から三階へは下りられたのに、三階から下りようとすると、四階に戻っていたのか。
タネが分かってスッキリはしたけど、分かってしまうと案外簡単というか、しょうもないというか、媛野がなぞなぞと言うのも頷ける内容だった。
「どう? 思ったより難しくないでしょ?」
「いやまぁ、言われてみればそうなんだけど、実際僕は解けなかったわけだから、そんなことを言える立場にはないな」
「そんな奇々怪々な現場に居合わせれば動揺するだろうし、それは仕方ないと思うけどね。私が古門くんの立場だったら、解けてたかどうか怪しいところだよ」
媛野なら普通に解けて、しれっと帰ってたんだろうな。
そうやって僕を気遣ってフォローを入れるあたりが、もう優等生のそれなんだよな。
「なんにせよ、これがタネだったわけだけど、でも根っこの方は全く分からないな」
「根っこ? 根っこって何だよ」
「文字通りだよ。根っこ、根本。今回の件で言えば、何が起きたかは分かったけど、何で起きたかは分からないってこと」
そうだった。
僕は一階に下りることに必死で、この怪奇現象から抜け出すことばかりを考えていた。
まぁ、それはそれで命が最優先なので間違ってはいないけれど、それと同じくらい、なぜ怪奇現象が起きたのかも考えなくてはならない。
「なぜ、か……」
かと言って、なぞなぞも解けない馬鹿な僕が考えたところで、何一つ分かりはしないだろうけれど。
でも、僕が答えを見つける必要はない。
それはさっき学んだことだ。
この手の話に、オカルトに強い適任を、僕は知っている。
「まぁ、こんな常識外れの怪奇現象なんて、頭がいいからって解明できるもんじゃないからな。僕が言うのもなんだけど、媛野が解けないのも無理はないだろ。とりあえず、魅子にでも聞いてみるよ」
「そうだね。それがいいかも。ともあれ、無事に一階に着けたわけだけど、肉体的にも精神的にも疲労困憊だろうから、早く家に帰りなよ」
「ん、あぁ、そうだな。また迷宮入りするのもごめんだしな。さっさとずらかるとしよう」
「古門くんが悪事を働いたみたいになってるけど、もしかして古門くん、エロ本でも買いに行ったの?」
「ちげーよ!」
今時の若者にとっちゃ、エロ本はオワコンだよ。
ってかそもそも未成年だから年確されて買えねーよ(買ったことないから多分だけど)。
その後は、パッパッと別れの挨拶を済ませて電話を切った。
さて、マンガを買って帰りますか。
約一時間ぶりのレジ前。
僕がレジの前に立った時、店主はレジの後方にある椅子に腰掛け、まるで待ちぼうけを食らったとでも言うように、舟を漕いでいた。




