このはフロッグ 其ノ肆②
「……なっ、なんで……」
怖い――と思うよりも前に、僕の体は、全身が震え出していた。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
戦慄が全身を駆け回っていく。
それに追い立てられるように、全身から血の気が失せていく。
手先が冷たい。
それなのに、背中や脇から汗が噴き出てくる。
ビビる僕を嘲笑うかのように、膝が笑っている。
僕は本屋に来たつもりだったのだが、実は幽霊屋敷にでも迷い込んでしまったのだろうか。
それとも、本屋を古いと罵倒した報いとして、この建物の守護霊のような存在に化かされているのだろうか。
どうしたらいい。
どうすればいい。
謝ればいいのか?
謝れば解放されるのか?
なら、誰に謝る?
どうやって謝る?
分からない、分からない、分からない。
怖い、怖い、怖い。
でも、一つだけ言えることはある。
一つだけ分かることはある。
このままでは、僕は一生帰れない。
ここで僕は、野垂れ死んでしまう。
それは――嫌だ。
考えろ。
動け。
僕は震える膝を、太股を、そして頬を叩いて、怖気づいて意気消沈している自分を奮い立たせる。
とにかく、現状把握だ。
僕は今、四階にいる。
そして四階は最上階、これより上にフロアはない。
であれば、答えは一つしかない。
下りるのみ。
僕はまたも体を翻し、階段を下りる。
今度は気にせず、普段通り、いつものペースで下りていく。
最後の一段にはすぐに到達した。
僕の目の前に広がっている光景は、間違いなく、三階のフロアだ。
この足を下ろせば、僕は三階に下りられる。
「ふっ!」
僕は肺の中に溜まっていた淀んだ空気を強く吐いて、それから静かに右足を下ろした。
が。
「あ、あれ……?」
今度は転移しなかった。
つまり、僕は三階にいた。
普通に、当たり前のように、四階から三階へ、僕は下りることができた。
嬉しいは嬉しい。
そりゃそうだ。
僕は一階に一歩――ワンフロア分近づいたのだから。
けれど、今の喜びを表現しようとすると、『やったー?』という感じ。
嬉しいことは嬉しいのだけれど、なぜ今回は転移しなかったのかという戸惑いの方が断然大きかった。
どういうことだろう。
僕の罪に対する罰は終わったということなのだろうか。
もしそうなら、僕はこの本屋を二度と罵倒しないと誓って、粛々と階段を下りて帰るのだけれど。
願わくばそうであって欲しいのだけれど。
僕は両手を胸の前で組んで祈りながら、続けて階段を下りた。
今度も気にせず、普段通り、いつものペースで下りていった。
そして、最後の一段。
本日三回目の、二階の景色。
「頼む……! 何も起きないでくれ!」
僕は二階の床に穴が空くんじゃないかというほど睨むようにして祈りながら、僕は右足を下ろした。
トッ――と。
僕のスニーカーが床を叩く音がして。
パッ――と。
僕の前の景色が切り替わった。
僕の祈りは空しく、天に届くことなく、気づけば僕は四階にいた。
先ほどと全く同じ、今まさに四階に上ってきたという格好だった。
「くっ……」
どうやら僕は、何らかの力によって、この本屋に閉じ込められたようだった。
具体的に言えば、僕は三階から下に行くことが出来ないようだった。
四階から三階には下りられるところから、何らかの法則のようなものがあることは推測できるけれど、それが何に従ったどんなものであるのかは、凡庸な男子高校生である僕にはまるで見当も付かなかった。




