このはフロッグ 其ノ貮③
「何だと思う? このはちゃんなら分かるよ。思い出してみて」
僕にそう言われたこのはちゃんは、考える素振りでなんなんなんなんと唸り始めた。
さっきから思ってたけど、この子口癖もちょっと変だよな。
まぁかわいいからいいんだけど。
かわいいからなんでもいいんだけどなん。
「分かったん! ビブラートなん!」
「歌声が美しい、けど違う」
「じゃあ、スタッカートなん」
「曲にメリハリがあって素敵、だけど違う」
「モスキートなん」
「あれ、急に聴力検査になったよ?」
「エアポートなん」
「ん、飛行機に乗るの?」
「パスポートなん」
「もしかして海外旅行?」
「スケープゴートなん」
「国外逃亡かよ!」
悪いことしたなら、ちゃんと罪を償いなさい。
ってか途中からこの子もふざけ出しちゃってるよ。
とは言えこのはちゃん、頭の回転は早いし、キレもいいし、とんでもない頭脳を持ってるな。
実は天才少女なのだろうか。
だとすれば、もっと他のことに注力して欲しいものだが。
宝の持ち腐れもいいところだ。
「……どんどん正解から離れちゃってるから答え言っちゃうけど、正解はオブラートだよ」
「なー、そうだったん。ボンタンアメ美味しいん」
確かに美味しいんだけど。
今時の子ってボンタンアメ食べたことあるのか?
まぁ、ショッピングモールとかに駄菓子屋があったりするし、ないこともないか。
けれどなんかこう、ことごとく少女のイメージを超えてくるというか、壊してくるのは何なんだろう。
俄然家庭環境が気になってくるんだけど。
「ところでこのはちゃん、今日は一人で遊びに来たの?」
「一人で来たお兄ちゃんに言われたくないん」
僕は別にぼっちであることを揶揄したわけではないんだけど。
自分も傷つくような皮肉なんて言わないし。
肉を切らせて骨を断つどころか、互いの傷口に塩を塗ることになっちゃうしさ。
「何して遊んでたの?」
「誰かが声を掛けてくるまでじっと待つっていう遊びなん」
「……それは遊びなの?」
「このはが遊びだと思う限り、それは遊びなん」
「まぁ、それは確かに、そうだね」
誰かに迷惑を掛けているわけでもないし、本人が楽しいと思っているなら、その通りだ。
お説ごもっとも。
「現に、面白いお兄ちゃんが釣れたわけだし、遊びとしては成立してるん」
「釣れたって……」
言い方が悪いよ、言い方が。
最初僕をマフィアだとか暴力団だとか疑っておきながら、これじゃどっちが悪者なのか分かりゃしない。
いやまぁ、どっちも悪者なんかじゃないんだけどさ。
「それはそうと、お兄ちゃんこそ『ぼっち』で何してるん?」
「まるでさっきの仕返しのように僕が一人であることを強調しなくてもいいんだけどさ、僕は散歩をしてたんだ」
「お兄ちゃんは悪い子なん。飼い主から勝手に離れちゃダメなん」
「僕はペットじゃない。健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する、正真正銘の人間だ」
僕をペット呼ばわりする君の方が、よっぽどペットみたいな格好してるんだけどな。
ていうか今の発言は、あからさまに僕を罵倒しているような気がするんだけど。
間違いなく、目上の人に対する物言いではないよな。
かわいいからいいんだけどさ。
「散歩してたはずのお兄ちゃんが、何でここにいるん?」
「歩いてたら、公園の隅に得体の知れない物体があるもんだから、怖いもの見たさって言うと大袈裟だけど、気になって近づいてみたら、このはちゃんだったって話だよ」
「それは悪いことしたん。謝りますん。UMAじゃなくてただの人間で、ごめんなさいなん」
「いやいや、僕は別にUMAかもしれないと大いなる期待を抱いて近づいたわけじゃないから、謝る必要は全くないよ」
むしろそんな可能性は露も考えていなかったのだけれど、もしあの緑色の物体がこのはちゃんじゃなくてUMAだったらと考えると、ゾッとする。
とは言えこのはちゃんも、UMAとまではいかないまでも、なかなかに変わった子だとは思う。
そういう意味では、衝撃的な出会いだと言えなくもない。




