ゆいデリューション 其ノ終
週明け。月曜日。
「おはよう、古門くん」
席に着くなり媛野の声が聞こえて、僕は顔を上げる。
そして驚愕、絶句した。
「ん? どうしたの?」
媛野が首を傾げる。
きっと僕は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたに違いない。
僕は挨拶を返すつもりだったのに、口から出てきたのはオウム返しのような言葉だった。
「お前こそ、どうした?」
「ん? あぁ、もしかしてこれ?」
媛野が顔近くに垂れる髪に触れる。
そう、媛野は、この土日の間に、胸辺りまであった髪をショートカットにしていた。
それはもう潔いほどに、清々しいほどに、バッサリと、すっきりと。
「失恋でもしたのか?」
「女子は失恋しないと大胆にヘアチェンジできないの?」
「いや、そんな決まりはないけどさ。そこまで思い切られると、何かあったのかと勘ぐっちまうだろ」
「まぁ、それはそうかも。理由としては単なる気分転換というか、心機一転したかったってだけなんだけどね。それより、どう? 似合ってる?」
「似合ってるよ。美人の媛野に似合わない髪型なんてものはないだろうけどな」
個人的には長髪が好きなので、前の髪型の方が好きなのだが、それは言えない。
言わないのが紳士の嗜みというものだろう。
「何それ、ホストみたいな発言でちょっと気持ち悪いんだけど。でもまぁ、褒めてくれたからギリギリ及第点かな」
「嬉しいなら素直に喜べよ」
「女子を褒めるのは当然でしょ。親友ならもっと気の利いたことを言って欲しいね」
そんなことを言われてもなぁ。
僕の貧弱なボキャブラリーでは、これ以上の賛辞は贈れないんだけど。
「次に期待するということで、頼むよ、神友の古門くん」
そう言った後、媛野は僕の耳元に顔を寄せる。
「パンツ分の働きはしてもらわないと困るんだから」
そっか、僕は媛野のお願いで神友になったんだった。
つまり僕は、一生をかけて、神友として償っていかなければならないのか。
その額、五億円――。
先が思いやられるというか、生命保険にでも入って、山から滑落死したい気分にもなるのだけど。
媛野に一生尽くすというのも、まぁ悪くはない。
あれから――つまりあの日からということなのだけれど、じゃあ『あの日』というのは具体的に『どの日』なのか、何が転換点でターニングポイントだったのかは僕にも分からないのだけれど、表面的には、女子二人組から最後に話を聞いた時ということになるだろう。
あれから、猫殺しに関する話は聞かなくなった。
全く。
人の噂も七十五日とは言うけれど、猫殺しは実際にあったのだから、話題にならないということは、猫殺しそのものが収まったと見ていいだろう。
事実、ニュースや新聞に取り上げられていないのだから、そうなのだろう。
そうなると、タイミング良く、おこがましいけれど僕という親友を得た媛野が猫殺しの――と思わないでもないけれど、期せずして、時を同じくして、媛野ではない誰かも心の闇から解放されたのかもしれないわけで、やはりどこまでいってもそれは、憶測でしかなかった。
真相は闇の中。
この結果では殺された猫たちは浮かばれないだろうけれど、仕方ない。
猫を殺す犯人の姿を、誰も見ていないのだから。
猫たちには申し訳ないけれど、僕が冥福を祈ることで何とか気持ちを収めて欲しいところだ。
ともあれ、これで猫殺しは一応幕引きとなったわけで、媛野も僕という親友を得たことで落ち着いているようなので、僕の話も一息つけそうである。
というわけで。
最後はこの言葉で締めくくるとしよう。
僕だって流行には乗っていきたいからな。
これでこの町は――。
安穏安穏アンノーン。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
これにてゆいデリューションは閉幕となるのですが、続編を書くべきか、正直悩んでおりました。
悩んだ結果、万が一続きを読みたいという方がいらっしゃるようなら、その方々のために書こう、と決めました。
ですので、もし、続編を読みたい、読んでやってもいい、という方がいらっしゃいましたら、評価 or 感想をいただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。m(__)m




