ゆいデリューション 其ノ拾④
「ちょっと待てよ。あの日、僕たちが最後に話してたのって、『犯人は更生できるか?』って話だったよな。それで僕とお前は『出来る』って答えて、それからお前と媛野は『心配ない』だの『安心』だの言ってたよな? これについてはまだ答えてないだろ? これはどういうことなんだ? 犯人はどうなるんだ? 猫殺しは続くのか?」
「はあ? 何を言うとるんじゃ貴様」
魅子は呆れ顔でそう言った。
「てっきり分かっとるもんじゃと思っとったが、何も分かっておらんではないか。少しはあやつの脳みそを分けてもらったらどうじゃ?」
グロテスクすぎる。
てか、それは無理だ。
せめて爪の垢にしていただきたい。
「はぁ、仕方ないの。無知な貴様に、蒙を開いてやるとするか。じゃが、儂も仏ではないからの。皆までは言わんぞ。後は自分で推し量れ」
「分かった」
「前にも言うたが、猫殺しも含めた犯罪行為というものは、元を正せば元凶は心の闇なんじゃ。犯人を捕まえて牢屋に放り込んだとしても、それは対症療法にしかならん。根治させるには、更生させるには、元凶である心の闇を取り払う必要がある。そしてあやつが抱えておった心の闇というのは、実は二つあったんじゃ」
「二つ?」
「そう、二つじゃ。一つはさっきも言うた通り、驚異的で圧倒的で絶対的な完璧思考。そしてもう一つは、孤独じゃ」
「孤独? それはないな。クラスの皆に好かれる人気者なんだぞ? 孤独になりようがないだろ」
「そういうことを言うておるのではない。さっきも言うたが、あやつは『なりたい』と思うて完璧な人間になっておるわけではない。言い換えるとそれは、完璧な人間を演じておったということじゃ。仮面を被っておったということじゃ。つまり、クラスの連中は――貴様も含めて、あやつが演じておった役を好いておるのであって、あやつ自身を好いておったわけではないんじゃ。
貴様らにはそんなつもりはないじゃろうが、少なくともあやつはそう感じておったじゃろうの。あやつ自身から見れば貴様らは、演じている役、キャラクターのことが好きなファンみたいな感覚で、友達とは思えんかったじゃろう。もちろんあやつのことじゃから、そんなことはおくびにも出さんかったじゃろうが。じゃが仕方のないことなんじゃ、これは。
あやつが隙を見せんかっただけ、完璧なまでに完璧な人間を演じておっただけで、あやつが本来の姿を見せんかった、見せられんかったという、あやつが優秀すぎるがゆえのジレンマなんじゃからの」
それは何とも皮肉な話だ。
媛野が完璧であればあるほど、媛野の中で友達という存在は遠く離れていく。
だが友達欲しさに完璧さを捨てることは、媛野にとっては許されざる行為なのだ。
苦しい。
あまりにも苦しい。
全身を鎖で巻かれ、牢屋に閉じ込められているような、そんな感覚になる。
「とは言え、友達がおらんというのはキツい。特にあやつの場合はの。あやつは執念によって自らを苦しめておったわけじゃが、その苦しみを話せる相手がおらんかったんじゃからの。あやつの心の闇は二つと言うたが、実際イメージとしては、執念が『拳銃』で孤独が『引き金』という感じじゃ。それだけに友達と呼べる相手が一人でもおればあるいは、と思うてしまうが、まぁそれは後の祭りじゃの」
「でも手遅れってことはないだろ?」
「もちろんじゃ。それに、あやつはもう孤独ではない。貴様が親友とやらになったんじゃからの」
そうだった。
僕と媛野は親友になったんだった。
でも、僕が親友で、本当に大丈夫なんだろうか。
我ながら心配でしかないのだが。
「拳銃は危険じゃが、引き金さえ引かなければ問題はない。暴発という可能性もなくはないが、それはケアを怠らなければ防げる。そういうことじゃ」
媛野に引き金を引かせない。
媛野が暴発しないように、日頃からケアをする。
媛野の親友に与えられる役割というのは、つまりそういうこと。
「責任重大だな……」
「そう気負うこともない。貴様があやつの友人でおるだけで、それだけで十分じゃ」
いや、だから、それが心配なんだけどな。
僕、媛野と釣り合うほど出来た人間じゃないし。
けどまぁ、やれるだけはやってみようじゃないか。
神友なんだから。




