ゆいデリューション 其ノ拾③
これで、学校では完璧超人として振る舞っていた媛野が、その裏では妄執に取り憑かれていて地獄のような日々を送っていたことは分かった。
だがそれではまだ、僕の欲しい答えには辿り着いていない。
「こっからがいよいよ本番なんじゃが、貴様よ、ストレスが溜まったらどうする?」
「イライラする」
「はぁ、そっからか……。まぁ良い。で、イライラしたらどうする?」
「むしゃくしゃして、物に当たる」
「最悪じゃの。まぁ、よくあるパターンじゃが。とりあえず、言うて欲しいことは言うてくれたの。つまり、端的に言うて、人間はストレスが溜まると、それを発散しようとするんじゃ。そして、そのストレス発散法というのは人それぞれ、千差万別じゃ。貴様のように物に当たる者もおれば、暴飲暴食をする者もおるし、我武者羅に運動する者もおるじゃろう。しかし中には特異な、歪なものもある。例えば――」
その話の運び方。
意味ありげな話の切り方。
嫌な予感がする。
直感的に、聞きたくないと思ってしまう。
それでも僕は、聞かずにはいられない。
「嗜虐的行動――つまり、生き物を傷つける、とかの」
僕は思い出す。
開腹された猫が大量死していること。
深夜に歩く媛野が血塗れのナイフを持っていたこと。
「ここからは推測でしかないんじゃがの」
と、魅子はらしくもなく、そんな前置きをした。
それは、魅子に自信がないという理由ではないことは分かる。
あくまでも可能性、どこまでいってもそれは可能性、そういうことを言いたいのだ。
そうであって欲しいという思いも込められているように、思う。
それは僕の思い込みかもしれないけれど。
少なくとも僕は、そう思っている。
可能性であって欲しいと。
「あやつは相当のストレスを抱えておった。じゃから、そのストレスを発散すべく、何らかの行動を取っておったことは疑う余地もない。しかしそれは、猫殺しの犯人にも言えることじゃ。犯人も何らかの強いストレスを抱えておって、それを発散するための手段が、生物を痛めつけることじゃったのかもしれん。そしてあやつもまた、発散するための手段が嗜虐的だったかもしれん。
じゃからあやつは、貴様と邂逅したその日の夜、血に濡れたナイフを持っておったのかもしれん。じゃがその血液は、猫のものかもしれんが、猫のものではないかもしれん。調べれば分かるじゃろうが、今となっては調べようもない。そして何より、儂も、貴様も、恐らく誰も、あやつが猫を殺した瞬間を見ておらん。
つまり、直接証拠も物的証拠もないんじゃから、あやつが猫を殺したとは断定出来んし、それは単なる当て推量、揣摩臆測でしかないんじゃ」
なるほど。
だからお前は、あんな台詞を言ってたのか。
意味が分かると、あの台詞もそれほど馬鹿らしいものではないな。
「貴様も全てではないにせよ、多少は思うところがあったんじゃろう?」
「そりゃな」
開腹された猫の死体。
血塗れのナイフを持った媛野。
二つの情報が同時期に入ってくれば、どうしたって、嫌でも繋げてしまう。
それが例え、有り得ないと思うことであっても。
勝手に繋がってしまう。
「でもそんな論理展開の仕方があるとは、目から鱗だったな。これなら、お前の言う通り、安心安心アンシーンだ」
「お、ようやく貴様もその言葉の意味を理解したようじゃの」
「まぁな」
「これが答えじゃ。今儂が貴様に説明してやったことを、あやつはあの時理解しておったということじゃよ」
すげーな媛野。
やっぱあいつは、優秀だ。
あ、でも待てよ。
今、魅子は『これが答えだ』と言っていたが、あの日、二人が通じ合う前に話した内容って確か――。




