ゆいデリューション 其ノ拾①
久しぶりに、約一ヶ月ぶりに、僕は二夜連続で魅子に会いに行った。
「今日も来たのか貴様。そんなに儂に会いたいのか? 愛いやつよ」
言うだろうと思っていた。
だが、僕が二夜連続で来たのはそんな理由ではない。
「まぁ、来るとは思っとったがの」
見透かされていたらしい。
さっきのボケも相まって、ちょっと腹立つなぁ。
沸き立つ苛立ちを抑えて、僕は手に持っていたレジ袋を魅子に差し出す。
それを受け取った魅子は、中身を見て目を輝かせた――かに見えたが、それは一瞬だった。
「ふんっ。これは差し詰め、賄賂ということじゃの。まぁ元より教えてやるつもりではあったからの、これは単なる手土産としてありがたく受け取らせてもらうぞ」
僕としても元より隠すつもりはなかったのだけれど、教えを乞う身としては、手ぶらよりノーブラ――もとい、心ばかりでも手土産があった方がいいだろうと思っての行為だったので、善意として受け取ってくれるのは、まぁ、ありがたい。
「で、貴様は昨日、きちんとあやつを送り届けたんじゃろうな? あやつの家まで」
なぜ最後に念押しする必要があるんだ。
「当たり前だろ。恋人でもない相手を自分の家に連れ込まねーよ」
「あやつはどうじゃった?」
「なんだよ、その持って回ったような言い方は。まるで思春期の娘を持つ父親が、久々に顔を合わせた娘に『最近どうだ?』って聞いてるみてーだよ。ざっくりどころかぼんやりしすぎだ。何をどう答えたらいいのか分かんねーよ。聞きたいことがあるならはっきり言え」
「そう言われてもの。取り立てて聞きたいことがあるわけじゃないんじゃが。でも貴様が答えにくいのなら、そうじゃの、何か良いことはあったか?」
いいこと、ね。
僕としては、僕としてならあれはいいことなんだけど、媛野としてはどうなんだろうな。
とは言え、元はと言えば媛野が望んだことだし、媛野としてもいいこと、だよな。
って言うか、そうであって欲しい。
「媛野と僕が『親友』になったってのは、どうだ?」
さすがに恥ずかしすぎて、『神友』とは言えない。
「ほう、そうか。貴様らがの。それは重畳じゃ。安心安心アンシーンじゃ」
「それ、お前の中で流行ってんのか?」
「ん? そうそう。今年の流行語大賞を狙っておる」
「……流行るといいな」
正直、そこまで『あんしん』を重ねられると、逆に噓くさい感じがして不安になるんだが。
知らない人に声を掛けられて、この人怪しいかもって思った矢先に、『怪しい者じゃないですよ』って言われる感じ。
ってか、こいつの中で流行ってるのって『マジマジ、大マジ、マジ卍』じゃなかったのか?
でも流行物は廃り物って言うしな。こいつの中でのブームは過ぎ去ったということかもしれんな。
にしても、早すぎる気はするけど。
至極どうでもいいんだけどな。
「見え透いた噓をつくな。……まぁ良い。これで儂のターンは終了、次は貴様のターンじゃ。何でも聞くが良い。どら焼き分の働きは保証するぞ」
「いや、別にそこまで構えてもらわなくてもいいんだけどな。僕が聞きたいのは、昨日の終盤も終盤、帰り際、お前らはまさにツーカーの仲って感じで通じ合ってたと思うんだけど、あれはどういうことだったんだ?」
「なんじゃ貴様、妬いておるのか?」
「茶化すな。僕は真面目に聞いてんだ」
「しかしの、それを話すには始めから話す必要があるんじゃが。どら焼き四つでは足りんのじゃが」
「そうかよ。じゃあ必要な数を言えよ。十個でも百個でも千個でも、言えよ。いくらでも買ってやる。だから話せ。僕は知りたいんだ、あいつのことを。僕と親友になってくれた、媛野のことを」
はぁ、とこれ見よがしにため息をついてから、
「熱いの。厚いの。篤いの。若いというのはそれだけで良いの」
と魅子は言った。
僕はそれに答えず黙っていると、魅子は唐突に核心に触れた。
「あやつは取り憑かれておった」
「取り憑かれてって……、まさか、媛野も霊に取り憑かれてたってことかよ!」
「いや、そうではない」
「そうではない? 何言ってんだよ。お前が言ったんだろ、取り憑かれてたって」
「何を言っとるんじゃは貴様の方じゃ。儂は取り憑かれたとは言うたが、霊にとは言うておらん」
「じゃあ何に取り憑かれてるって言うんだよ。ゾンビか? 化物か?」
「妄執じゃよ」




