ゆいデリューション 其ノ漆②
やって来たのだが。
「貴様がそれを知ったところで、どうにもならんじゃろ」
と、にべもない返事だった。
その通りですけど。
ただの雑談なんだからいいじゃないですか。
おしゃべり好きの魅子にしては珍しい、と言うより、いささか反応が悪いというか、この話題を嫌っているようにも感じられた。
おやおや、もしかして魅子さん、実は詳しくなくて露呈するのを避けたいのでは? と悪戯心が僕に囁くので、突っ込んで聞いてみると。
「教えてやらんとは言うてないじゃろ。それよりも、そんなことよりも、まず言うべきことがあろう」
と、これまたにべもない返事。
むむ。
どうやら今日は機嫌が悪いのかもしれない。
もしかして、女の子の日なのだろうか。
「まず言うべきこと?」
「そうじゃ」
んー、何だろう。
『まず言うべきこと』だから、魅子に会った最初に言うべきってことだよなー。
「こんばんは。今日はお日柄も良く――」
「挨拶せぇと言うとるんじゃないわ!」
「今日も素敵なおっぱいですね?」
「世辞でもないわ! 貴様は儂の胸しか見とらんの」
「いえいえ、それほどでも」
「褒めとらんわ」
分からん。
何を言えば正解なんだ。
「察しの悪い男じゃの、貴様は。まず儂が聞きたいのは、例の犯人の経過じゃ」
「あー、なるほどね。それならそうと早く言えよ。僕たちはまだ『つう』と言えば『かあ』で返せるほどの仲じゃないんだからさ」
「色々言いたいことはあるが、その『つうと言えばー』はどういう意味じゃ?」
「あれ、お前知らない?」
「知らんの」
「『ツーカー』って言葉聞いたことないか? ツーカーの仲って感じで使うんだけど、一人が『つう』って言っただけで、もう一人は相手の言いたいことが分かって『かあ』って返すぐらい、お互い仲がいいって意味なんだけど」
「『ツーカー』とはそういう意味じゃったのか。てっきり儂は二台の車じゃと思っておったぞ。じゃから、ツーカーの仲というのは、ドライブ友達ということじゃと思っておったわ」
あはは、と魅子は自虐的に笑うのだった。
とんでもない誤解釈だった。
小学生みたいな間違いだった。
まぁ分からんでもないが、今時いつでもどこでもネットに繋がるんだから検索しろよ。
ググれよ。
と思ったところで僕は、魅子がスマホを所持していないことを思い出した。
僕は未だにそれを信じていない(というか信じられない)のだけれど、仮に、百歩譲って、それが本当なのだとすれば、せめてパソコンは家にあるだろうとは思うので、結論としてはやはり、ネットで検索しろ、だった。
「儂が少し賢くなったところで本題に戻るぞ。犯人のその後はどうなんじゃ、何か動きはあったかの?」
「相変わらず動いているみたいだけど、進展の有無って意味で言えば動きは無いな」
「そうか。つまり、変わらず死体は見つかっておるというわけじゃな?」
「そういうこと」
「他に気になるようなことはなかったか?」
「ないと思う。僕から声を掛けて根掘り葉掘り聞いたわけじゃなくて、女子が話してるのを聞いただけなんだけど、何かが変わったとかそういう類の話はしてなかった」
「なるほどの。貴様は友達がおらんことで有名じゃから、貴様がどうやって噂話を聞いておるのか儂は不思議だったんじゃが、なるほどなるほど。盗み聞きしておったとはの」
忸怩たる思いではあるが、何もコソコソ話しているところを強引に盗み聞きしたわけではないので、そこまで悪いことではないと思うのだが。




