ゆいデリューション 其ノ陸④
僕はついこの間まで、『象の霊』に取り憑かれていた。
その霊を祓ってくれたのが何を隠そう、この魅子なのだ。
おかげで僕は年単位に及ぶ体の不調から解放されたわけで、僕にとって魅子は恩人そのものなのだが、まぁそれはいいとして。
その『象の霊』というのが、元を辿れば、とある一人の女子が僕に抱いていた(と思われる)恋心――つまり愛が、何らかの形で憎悪へと変異し、その強い執念が霊体に変化したというのが、魅子の弁である。
これを踏まえれば、犯人が抱えているであろう心の闇というのは既に執念であろうし、いつ霊体に変化してもおかしくないという危惧は、極めて妥当と言えた。
「未然に防ぐことは出来るのか?」
「出来る。出来るが、それはさっき貴様が馬鹿にしておった、探偵ごっこをすることになるがの」
「犯人を捕まえるってことか」
「それだけではない。むしろそれは前提条件じゃ。犯行も霊体も、元凶は心に巣くう闇なんじゃから、犯人を特定した上で、そやつの心の闇が何なのかを聞き出して、さらにその闇から解放してやらねばならん」
「んー、無理だな」
いや、分かってはいたよ?
分かっちゃいたけどさ。
無理ゲー、クソゲーだよ、それ。
そもそも第一関門からベリーハードどころじゃない難易度だもん。第一関門じゃなくて第一鬼門になってるもん。
駄門だもん。
開発者、プレイヤーに攻略させる気ないよ。
くまモンも苦悶の表情で悶絶しちゃうよ。
苦魔物になっちゃうよ。
「無理かもしれんの」
「『かも』ってなんだよ。それだと可能性があるみたいな言い方になってるぜ? それとも何か? 攻略の糸口でもあるのかよ」
「ないでもない」
「あるのかよ。あるなら勿体ぶってないで言えよ」
「犯行は全てこの町で起きておるんじゃから、犯人もまたこの町に住んでおると考えていいじゃろ? なれば、数撃ちゃ当たるというやつじゃ。そういう意味での『かも』じゃ」
「そういう意味での『かも』は普通、可能性のうちに入れないんだよ」
「誰も全住民を当たるなどとは言っておらん。目星を付けて的を絞れば、可能性は上がるじゃろ?」
「そりゃそうだけど。どうやってその目星を付けるんだよ」
「知らん。それは目暮警部とかコナンくんの仕事であって、儂の仕事ではない」
む。確かに。
僕たちが犯人を捕まえるならという仮定の話をしていたのであって、実際に捕まえるのは僕たちではないのだから、そこまで真剣に深く考える必要はなかった。
「まぁ当てがないでもないんじゃが、今は経過観察じゃな」
「お前の『ないでもない』は当てにならないんだよ」
という魅子の言葉に合わせた僕の皮肉な返しを最後に、猫の大量死の噂話は切り上がったわけなのだけれど、僕は家に帰ってから指摘漏れをしていたことに気づいた。
魅子は「『今は』経過観察じゃな」と言ったのだ。
今は。
それはすなわち、『未来』があるということであり、『今』の経過観察如何によっては、『未来』に何らかの行動に移るということだ。
そう考えると、最後に言った『当てがないでもない』は、本当にないでもないのかもしれない。
魅子は今、何を考えているのだろう。
もしや本気で、探偵ごっこでもしようと言うのだろうか。
もしそうなら、キャッチコピーについては早々に再考せねばなるまい。




