ゆいデリューション 其ノ陸③
「話変わるけど、腹繋がりで面白い話があるぜ」
「ほう、面白い話とな。それは是非聞かせてもらいたいんじゃが、面白いというからには面白い話をせえよ。貴様が面白いと言うから儂の期待は高まっておるが、貴様のハードルも高まっておるぞ」
「問題ない。ただの噂話を聞かせてやるってだけだから、面白くなくても僕のせいにはならない」
「それは言い逃れどころか責任転嫁じゃぞ、貴様」
「まぁいいから聞けって」
「そういえば『面白い』って漢字は変じゃの。字面を直訳すると『面が白い』ということじゃが、それじゃと白粉を塗る舞妓は存在するだけで滑稽ということになるぞ」
「いいから聞け」
話が進まねーだろうが。
確かに語源は気になるけどな。
ようやく魅子が静まったところで、僕は同級生女子から聞いた(盗み聞きしたというのが正しいかもしれない)例の猫が大量死している件について話した。
話したと言っても多くを語ったわけではない。
事実だけを語ったので、話したことを端的に言えば、猫が最近大量死していることと、その死が残虐的であったことだけだ。
『面白い』という言葉には複数の意味があって、先ほど僕が使った時は『興味深い』という意味だったけれど、魅子は『笑える』という意味で捉えていたはずだ。
僕は元から興味深い話をするつもりだったわけなので、結果として魅子は全く笑っていないのだけれど、この話を魅子も同じように興味深いと思ってくれたのか、僕が引責させられるということはなかった。
「一つ聞くが、この話はいつ頃から噂になりだしたんじゃ?」
「それは知らないな。僕は聞いただけというか小耳に挟んだだけだから。それって大事なことなのか?」
「大事じゃろ。犯人がいつ頃からその悪事に手を染めだしたのかという、重要な手掛かりになる」
「探偵気取りかよ。日本には工藤新一と服部平次っていう二人の名探偵がいるから、お前は必要ない」
「そうか、それは残念じゃの。儂も『見た目は豊満、頭脳は放漫』みたいな売り文句で売り出そうと考えておったんじゃがの」
うるせーよ。
自分で豊満とか言うな。
自賛すんな。
そんでもって、頭脳が放漫なら探偵にはなれねーよ。
そんな探偵には誰も依頼しねーよ。
「迷探偵」
「おい貴様、今儂を馬鹿にせんかったか?」
「してないしてない」
つい棒読みになってしまって、危うく僕は魅子の視線に貫かれそうだった。
念のため触診してみたけれど、鼻の穴が三つになっていたり、第三の目が開眼していたり、なんてことはなかった。
「しかし厄介なことじゃの」
「厄介? 何が厄介なんだよ。またぞろ探偵気取りか?」
「いやの、別に儂は犯人を捕まえたいとかそんな大それたことは考えておらんのじゃが、人並に憂いてはおるんじゃよ、色々とな。こんな惨いこと、正気の人間が出来ることじゃなかろう。犯人は相当の闇を抱えとると見える。
なれば、ともすると、貴様の『象』よろしく、その闇が霊に変化する可能性は十分にある――というか、既に霊に変化してしまうだけの闇の深さには達しておるじゃろうから、時間の問題じゃな」




