ゆいデリューション 其ノ陸②
「それで、そやつとは付き合いが長いのかと聞いておる」
結局名前で呼んでやらねーのな。
「ちなみに『付き合い』は『交友関係』という意味じゃからの。まっ、愛だの恋だのに永遠縁のない貴様が勘違いすることはないじゃろうが」
分かっとるわ。
それに一言多いわ。
辛辣すぎるわ。
僕泣いちゃうぞ。
えんえん。
「去年もクラスは一緒だったけど、付き合いは全くなかったな。それこそ、お前が好きな血塗れのナイフを見た時が初めての接点だ」
「まぁそうじゃろうの。そうじゃろうとは思っとったが。貴様みたいなムッツリ陰キャぼっちが、あやつのような才色兼備の女子と関われるわけがないわ」
「いちいち僕をけなすな。ほんとに泣いちゃうぞ」
「貴様から見て、あやつはどうなんじゃ?」
「どうとは?」
「そのまんまじゃよ。あやつにどんなイメージを持っておるんじゃ? 賢いとか、美しいとか、おっぱいが大きいとか、いい体つきじゃとか」
「そういうことなら、その通りだよ。頭が良くて、顔が整ってて、おっぱいが大きくて、いい体だ。なんならお尻だっていいぜ」
「変態じゃな」
「健全な男子高校生と言ってくれ」
「そうとも言わんでもない」
「で、急に何なんだよ。媛野のイメージが何か関係あるのか?」
「いいや、別に。顔立ち目鼻立ち朝立ちはどうにもならんが、外面は本人の意識次第でどうにでもなるという話じゃ」
どさくさに紛れて下ネタぶっ込んでくんじゃねーよ。
お前も大概変態だよな。
確かに朝立ちってどうにもならないんだけどさ。
朝目覚めたら、勇ましく雄々しく聳え立ってるもんだから、つい『おいおいどうした、朝から元気いいな』って話しかけちゃうもんな。
「何だよそれ。それじゃまるで、媛野が腹に一物抱えてるみたいな言い方じゃないか」
「何を言うておるのじゃ。誰だって一つや二つ抱えておろう。むしろ抱えておらんほうがおかしいわ。問題なのは、抱えとることではなくて、程度――つまり量や大きさの方じゃろうが」
なるほど確かに、そうなのかもしれない。
人間誰しも少なからず不平不満を持っているし、人間は多少のストレスがあった方がいいとも聞いたことがある。
もしこれが本当なのであれば、人間はより良く生きるためにストレスを抱えると言えなくもないわけで、そう考えると、僕たち人間が生きる上でストレスを抱えることは自然であり、当然、必然と言っても過言ではないのではないだろうか。
けれど、そのストレスが度を超すと精神や身体に異常をきたすわけで、度を超すというのはすなわち、魅子が言うところの『量や大きさ』が許容範囲を超えるということに他ならない。
「じゃからと言って、あやつが何を抱えとるのかなぞ知らんがの。言うてみただけじゃ」
「何だよそれ。ただの当て推量じゃないか」
まぁの、とだけ魅子は言って、それ以上何かを言うような雰囲気はなかった。
どうやらこの話題の興味は尽きたらしい。
結局のところ魅子が何を聞きたかったのかはよく分からなかったが、言っても雑談なわけなので、理由も目的もないのかもしれない。
それに実のところ僕にしたって、理由や目的を知りたいわけでもないのだけれど。
要は単なる思いつきで訊いただけだ。




