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禍い物  作者: 青野 乃蒼
ゆいデリューション

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ゆいデリューション 其ノ肆②

本題に入ると言いながらも、話題としてはありきたりと言うか、媛野の学校生活であったり当たり障りのない私生活の話といった雑談しかしておらず、魅子に何の目的があって聞いているのか、僕には分からなかった。


まぁ魅子のことだし、目的なんてないというのがオチなんだろうけど。


媛野が帰るというので僕は家まで送ろうかと思ったのだけれど、行きが現地集合だったので帰りだけ同行するというのも変な気がして、今回は控えることにした。




「やはりの……」


媛野がいなくなってから、魅子が僕に聞こえるかどうかといった小さな声で呟いた。


その音量が示す通り、魅子は僕に言ったわけではなかっただろうし聞かせるつもりもなかったのだろう。


けれど僕は聞いてしまったし、その言いぶりに戯(おど)けた雰囲気が感じられなかったのは少し気になった。


「何が?」


「ん? 貴様が童貞じゃったことじゃ」


魅子はそう言った後、しっしと虫を払うように手を振る。


「今日は貴様も帰れ。秘密を暴露されてメンタルが弱っとるじゃろ。涙が零れる前に、さっさと帰るんじゃな」



魅子はいつものようにふざけているようでいて、きっと僕を誤魔化そうとしている。


それは短いようで長く、長いようで短い僕が魅子と過ごした時間が、何となくそう思わせるのだった。



「なんだよ、今日はつれないな。お前から帰れって言うなんて今まであったかよ」


「無かったかもしれんが、それはいつか言うたじゃろうし、その『いつか』が『今日』じゃったというだけじゃろ」



言葉遊びで言いくるめようとしているのが分かるが、まぁいいか。


言いくるめられてやるとしよう。


別にそこまで聞き出したいわけじゃないし。


大事になるようなら言ってくれるだろうしな。



「あー、分かった分かった。帰るよ、帰りますよ。だけど一つだけ聞かせろよ。今日の会談はどうだった? 楽しかったか? 媛野はどうだったよ?」


「一つと言いながら二つ聞いておるが、まぁ良い。……楽しかったぞ。貴様と話すのも楽しいが、たまにはこういうのも悪くないの。で、あやつじゃが。あやつは予想通り、良い子じゃったわ」



僕の気のせいかもしれない。


気のせいかもしれないが、魅子は『良い子』をやや強調して言ったような気がする。


それはそう、言うなれば、『棘のある言い方』だ。


媛野は頭がいいし性格もいい。


今日三人で話していた中で、媛野が頭の良さを鼻にかけるような発言はしていなかったし、誰かを罵倒したりということもなかったと思う。


なのに、何が魅子の気に障っているのか。


女性ならではの嗅覚で、何かを嗅ぎつけでもしたのだろうか?


などと、ついつい勘ぐって柄にもなく憂慮などしているのだけれど、魅子のイントネーションがちょっと変だっただけとか、本当に僕の気のせい――というか勘違いの可能性は大いにしてある。


まぁ、帰れと言われてるし、今日は気のせいということで流しておきますか。



「楽しかったんなら何よりだ。僕みたいに毎週ってわけにはいかないだろうけど、また媛野と話したくなったら言ってくれ、交渉はするから。じゃ、そういうことで。またな」


「またの」


魅子は『バイバイ』の別れの意味なのか『しっし』と追い払う意味なのかよく分からない感じに、ひらひらと手を振った。




神社跡が建物で見えなくなる寸前、僕は神社跡に目を向けて魅子を見る。


魅子は不敬にも本殿に座り、まさにオーギュスト・ロダンの銅像『考える人』そのもののポーズで、どこを見るでもなくぼんやりとしていた。


それがあまりにも普段の魅子らしくなく、僕にはそれが何かの凶兆のように思えるのだった。

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