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禍い物  作者: 青野 乃蒼
ゆいデリューション

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25/71

ゆいデリューション 其ノ肆①

「初めまして。媛野唯です」


金曜日の深夜、僕と魅子が雑談しているところに、媛野は現れた。


僕が媛野を迎えに行って、それから一緒に神社跡へ行くことも考えたのだが、二年連続クラスメートとは言え、話し始めたのがついこの間という友達とは到底呼べない男子に、自宅を知られたくはないだろうと思って現地集合にしたのだ。


だが媛野が来たところで、僕は気づいた。



待ち合わせにすれば良かったのだ――と。



泣ける。


自虐的だが気遣いの出来る紳士だと自負していたというのに。


それが若干誇らしくもあったのに。



僕はただの馬鹿だった。



モテ男との違いというのは、多分こういうところなんだろうなー。


そういえば、チャラ男って何となくちゃっかりしてるイメージあるもんな。


チャラ男ってチャラチャラしている男の略だけど、実はちゃっかり・ラッキー男って可能性もあるんじゃないだろうか。



「おぉ、お主が血塗――」


「ああああああぁぁぁぁーーーーーーーー!」


僕は奇声を上げることで間一髪、魅子の言葉を制した。



何やってんだよこいつは!


ここで鉄板のボケかますな!


されて分かったけど、カバーする身としちゃ、堪ったもんじゃねーなこれ。


声じゃなくて心臓が出るかと思ったわ。



「なんじゃ貴様は藪から棒に」



久々に聞いたな『藪から棒』って。


なんやかんや、ルー大柴以来な気がするな。


あ、それだと正確には『藪からスティック』か。



『ボケはいいから、そこは触れずに進めろ』と口では言えないので、怒りも込めて強い視線を魅子に向ける。


だが魅子はきょとんとするばかりで、僕の意思は全く伝わっていないようだった。


どうやら先ほどのボケはボケではなく、呆(ぼ)けの失言だったらしい。


「どうしたんじゃ貴様、今日はやけに儂に熱視線じゃの。そんなに儂の胸が揉みたいのか?」


「今は思ってねーよ」


「……古門くん、『今は』って言った?」


 は媛野の問いを無視して話を続ける。


「媛野、これが五百城(いおき)魅子だ」


「おい、貴様! 『これ』とはなんじゃ『これ』とは。儂の扱いが雑すぎるじゃろ。これじゃから最近の若いもんは」



その嫌味は老害のそれなんだよな。


お前もまだ若いだろ。


……その見た目で五十代とか、ないよな?



「五百城さん、よろしくお願いします」


「こちらこそじゃ。しかしお主、なかなかの別嬪(べっぴん)じゃの。まぁ儂には叶わんが」

「あ、ありがとうございます」


「お主、処女かの?」



なっ! 初っ端から何てこと聞きやがる!


これでさっきのミスは帳消しにしてやらんでもない。



「えっ……」


「処女かと聞いておるのじゃ」


「……えぇーっと」



気になる。


僕もすごく気になる。


けど。


だけれども!


ここは苦渋の決断をせねばなるまい。


甚だ遺憾ではあるけれど、ここは紳士として助け舟を出した方がいいだろう。



僕は目から血を流しながら口を挟む。


「……おい魅子。この質問に答える意味はあるのか?」


「特にはないの。ただの余興じゃ」


「そんなことだろうと思ったぜ。僕ならともかく、初対面の相手にそんなこと聞くんじゃねーよ。いい大人がどんな神経してんだよ」


「貴様は処女じゃなくて童貞じゃろうが」


「僕に処女かどうかを聞くのはいいって意味で言ったんじゃねーよ」


「童貞は否定せんかったの」


「揚げ足を取るな。僕は童貞じゃ――」


「童貞じゃ?」


「……くっ」



くそっ。


否定したい。


否定してやりたい。


童貞なんかじゃない、僕はヤリチンだって言ってやりたい。


なのに、僕の口は開こうとしない。


紳士たる良心が噓をつかせまいと塞いでいる。



「古門くん」


「なんだよ媛野」


「高校生なんだから、童貞は恥ずかしいことじゃないと思うんだけど」


「お前が言うなあああああぁぁぁぁーーーーーーーーーー!」



僕に助けられたお前がそれを言うのかよ!


だったら恥ずかしがってないで、処女かどうかさっさと答えろよ!


無駄に紳士ぶって損しただけじゃないか。



「そう怒るな、童貞」と魅子が言う。


「童貞言うな。僕はまだ何も言ってない」


「違うのか?」


「……違う、ことはない」


「やっぱりの。じゃが悲観するな。貴様はまだ若いんじゃ。まだ人生はたっぷり残っとるじゃろうからその内……の」


「そのタメは何なんだよ! 全然フォローになってねーじゃねーか! ってか何でいつの間にか僕の経験の話になってんだよ」


「貴様が言い出したんじゃろ」


「ちげーよ。お前だろ」



ちょっと戻って読んでみろよ。


お前が『童貞』って言ってるぜ?



「ってか媛野、お前はどうなんだよ」


「え? 何が?」


「処女なのか?」



媛野、お前も道連れだ。


恩を仇で返してきた報いを受けさせてやる。



「おい貴様よ。女子(おなご)にそんなことを聞くなんぞ、とんでもないクズじゃの」


「お前が言うなあああああぁぁぁぁーーーーーーーーーー!」



こいつ自分のことを棚に上げすぎだろ。


棚どころか山だわ。



「さて、こやつの暴露も済んだところで前座はこのくらいにして、そろそろ本題に入るかの」


と、魅子は何事もなかったかのように話を打ち切り、次の話題へと移っていった。



結局、僕が辱めを受けただけだった。


骨折り損のくたびれ儲けだった。


とんでもない前座だ。

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