ゆいデリューション 其ノ參①
媛野がお花を摘みに行ってから、十分が経過していた。
その間僕は特に何をするでもなく、手持ち無沙汰に媛野のトイレ――お花を摘んでいるシーンを妄想していた。
僕の妄想の中では、媛野のパンツは白色だった。
純情優等生って、白色のイメージあるよな。
単なる既成概念、固定観念だとは思うけど。
しかし、長い。
女性は男性よりも時間が掛かるというのは知っているけれど、さすがに十分は時間を掛けすぎではないだろうか――と思ったところで、今度は先入観に囚われていたことに気づいた。
――うんこか。
おっと、失礼。
これでは直截的すぎるか。
女性相手だし、食事中の読者がいるかもしれないしな。
これでは媛野に配慮がどうのこうのと言えたものではない。
反省反省。
間接的かつかわいらしい表現にしよう。
それならば問題あるまい。
というわけで。
仕切り直し。
――『ぶりぶり』か。
手前味噌で恐縮だが、我ながら絶妙なラインではないだろうか。
小さい子が怒っているようなかわいさを湛えつつ、例の物が排出されていく様を軽やかにイメージ出来るという、ブリリアントな表現だと思う。
皆さんの賛辞を賜ることが出来ないのが、残念でならない。
媛野は美人であるがゆえに天使のようであるが、天使ではない。
紛うことなき人間である。
天使はトイレになど行かないが、人間はトイレに行く。
つまり、媛野はトイレに行くし、『ぶりぶり』だってする。
そんなことを言うと媛野がぶりぶりと怒りそうだけれど、人間なのだから媛野がぶりぶりと『ぶりぶり』をするのは、至って当たり前で何ら恥ずかしいことではないのだ。
そういえば、本で『トレイ』って単語が出てくると、いつも『トイレ』と読んでしまって、後から「あぁ、『トレイ』か」ってなるんだけど、これって僕だけじゃないよね?
僕が下品なわけじゃないよね?
んー、それにしても暇だな。
少し歩くか。
一時間以上座りっぱなしだったこともあって、僕は席を立った。
廊下へと向かいながら、肩の凝りをほぐすべく腕を回す。
あー、やっぱりこの軽さ、段違いだな。
出入口のドアは開いたままだったので、僕は腕をぐるんぐるんと風車のように回しながら通過しようとすると、目の前にすっと媛野が現れた。
「あ」
「あ」
あまりにも突然の出来事で、僕は回していた腕を止めることが出来なかった。
そして不幸なことに、僕の腕は後ろ回り(手が正面に来た時は下から上へ通過する)だった。
僕の腕は媛野のスカートにジャストミートし、スカートを捉えたまま、勢いよく下から上へと突き上げたのだった。
スカートの裾は天高く舞い上がり、媛野の美しい御御足が、絶対領域が、そして――パンツがお披露目される。
それはもう、くっきりはっきりバッチリと。
――黒。
「きゃっ!」
媛野が慌ててスカートを押さえる。
時すでに遅しではあるが、これは羞恥心からくる反射的行動なのでそういう問題ではない。
媛野の目と僕の目が合った。
僕の目は興奮で血走っているだろうけれど、媛野の目は怒っているでも泣いているでもなく、やや呆気に取られたという風に見えた。
「……見たよね?」
僕の心臓がドキンと跳ねる。
こういう時って、どっちが正しいんだろうな。
ポロリとかチラリだったら、『見てない』で押し通してしまった方がお互いのためのような気がするけど、今回はガッツリだからな。
ここは噓をつかずに、正直に言うしかないか。
僕は深々と頭を下げて言った。
「ごちそうさまでした」
「教室の端まで下がって、そこで正座して。言い訳はそれから聞くね」




