ゆいデリューション 其ノ貮③
僕は出端を挫かれながらも、原因が霊であったこと、つい先日除霊してもらったこと、それ以降すこぶる体調が良いことを話した。
話しながら、魅子のことについては伏せておいた方がいいのだろうか、とそんな考えが頭をよぎったのだが、結局は包み隠すことなく話した。
伏せるべきような点がないように思えたし、そもそも伏せるほどの魅子に関する情報を持っていないことに思い至ったのだ。
「なるほどね。原因は幽霊だったわけか。象の幽霊っていうのは初めて聞いたけどね」
ふふ、と媛野は思い出したように笑う。
「僕もビックリだよ。まぁ、本当のところは分かんないけどな。僕にはついぞ見えなかったし、謎だらけの魅子が言ってることだしな」
「魅子さんって何者なんだろうね。古門くんの配慮もあって魅子さんの情報がほとんどないから、突っ込みどころ満載だよね」
「まぁな。本職は何してんだろうとか、どこに住んでるんだろうとか、いつもノーパンノーブラなのかとかな」
「最後のは何? どういう意味?」
「どういう意味って、そのまんまだけど」
「そんな人いるわけないでしょ」
「やっぱそうかー、そうだよな」
あれは噓だったのか。
よく考えれば、そりゃそうだよな。
よく考えなくてもそうだよな。
歩きながら履いてるパンツを失くすなんて、有り得ないもんな。
「ちなみに、念のための確認なんだけど、媛野は着けてるよな?」
「……当たり前でしょ」
媛野はおもむろに、右手で胸を隠し左手でスカートを押さえる。
その動作の何といじらしいことか。
まるで僕がいけないことをしているみたいじゃないか。
「そうか。媛野が言うならそうなんだろうけど、僕は確信が欲しいんだ。ちょっとでいいから、そのスカートの中を見せてくれないか?」
「見たいの?」
「見たいですっ!」
「どうしても?」
「どうしても!」
「じゃあ――はい」
媛野はスカートを押さえていたその左手を上げて――僕の前に差し出した。
スカートからは手を離していたので、誠に遺憾ながら捲り上がることはなかった。
「はい?」
「五億円、一括前払い」
五億っ!
しかも一括!
魅子の倍以上するじゃねーか。
てかお前もその件すんのかよ。
「……辞退させていただきます」
「残念。これで一生遊んで暮らせると思ったのに」
なんだこの強かさは。
さっきの恥じらう姿は噓だったのか。
もしそうならとんでもない策士だ。
将来は魔性の女――いや、傾国の美女にでもなってしまいそうだ。
それだけのポテンシャルは持ってるしな、媛野は。
案外、才色兼備と魔性の女って紙一重だったりするのかもな。
「さて、いい時間にもなってきたし、宴も酣ではございますが、そろそろお開きにしましょうか」
媛野の言葉を受けて、僕は黒板の上の掛時計を見る。
どうやら一時間以上、話し込んでいたらしい。
「そうだな。じゃあ、帰りますか――」
と言ってから僕は、魅子に頼まれていたことを思い出した。
「あ、ちょっと待ってくれ。一つ思い出したことがある」
「ん、なに? その話は長くなりそうな感じ?」
「あー、そうかもしれないし、そうではないかもしれないな」
媛野が渋るようだったら、長引いてしまうな。
魅子に借りを返さないといけない手前、おいそれと引き下がるわけにはいかないし。
「じゃあ、ちょっと待っててくれる? お手洗いに行ってくるから」
「僕も一緒に行こうか?」
「一人で逝ってください」
捨て台詞を残して、媛野は早足で教室を出ていった。




