あかつきエレファント 其ノ貮①
今まさにこの物語をご覧いただいているお歴々に、無知蒙昧で不学無術な小生を存分にお披露目したところで、そろそろ本題に入らせていただくとしよう。
僕としては一向に構わないのだけれど、これ以上僕の非才ぶりを語ったところで益体もないし、皆さんのお目汚しになってしまう。
いくら皆さんが寛大で寛容とは言え、限界というものはあるだろう。
あの仏様でさえ、三度までなのだから。
というわけで。
閑話休題。
夜、と言うより深夜、僕はよく散歩をする。
理由は色々あるけれど――本当に色々あるけれど、最大を決めなければならないとするならば。
それは――暇だから、である。
健全な男子高校生にして帰宅部のエース(?)である僕は、とにかく体力を持て余す。
世間一般の就寝時間には、眠気など全くというほどやって来ない。
ギンギンである(誤解を招きそうなので念のために言うが、『目』のことだ)。
来てほしい時には来ないくせに、来てほしくない時にはいけしゃあしゃあとやって来るよな、眠気ってやつは。
テスト前日、全くやる気が起きない自分に拷問官よろしく血が滲むほどムチ打って、「さぁ、やるか!」って始めた途端に、ロケットスタートかましてきたりするもんな。
ホント忌々しいぜ。
未成年が夜更けに外出するとはどういう了見か。
親は何をしているのか。
という声が聞こえてきそうだけれど、前者は先述の通りとして、後者については両親の名誉のためにも弁解しておこう。
僕が深夜の散歩を始めた頃、両親は僕を咎めていた。
危ないでしょ。
遅い時間に行く必要なんてないでしょ。
散歩したいなら、もっと早い時間にしなさい
云々。
でも僕はそれを聞かなかった。聞き流した。
ある時は右から左へ。
ある時は左から右へ。
反抗期とか、そういうことではなく。
両親を困らせたいとかでもなく。
単に、楽しかったのだ。
好きと言っていいのかもしれない。
ほとんどの人が寝静まり、人っ子一人いない、人気のない静謐な暗闇の中。
気ままに。
自由に。
闊歩出来ることが、気持ち良かった。
何にも縛られない解放感が、気持ち良かった。
続けた結果、両親は何も言わなくなった。
おかげで僕は散歩に行きやすくなったのだけれど、心置きなく、というわけではない。
僕にだって良心はある。
両親が何も言わなくなったからといって、心配しなくなったわけではない――だろうから。
だから僕は、一つだけ心に誓っていることがある。
必ず生きて帰ってくること。
なんて、ちょっとカッコよさげなことを言っているけれど、十中八九――否、九割九分、危殆に瀕する時は、自分の意思などこれっぽっちも及ばないのだけれど。
ガチャン――と、背後で扉の閉まる音。
今日も僕はいそいそと、吸い込まれるように、暗闇の中へ足を踏み入れる。




