ゆいデリューション 其ノ壹
放課後。
空き教室。
男女二人。
この三つの言葉を聞いて、皆さんはどんな光景が浮かぶだろうか。
僕はと言えば、ラブでハッピー、キャッキャでウフフ。
あわよくば、いやーんあはーんな光景が浮かんでくる。
特に後半のシーンなら、やめろと言われても止まらないほどに鮮明で鮮烈な妄想が出来る。
僕、古門暁は、平凡で凡庸で人並な、いたって普通の男子高校生ではあるが、ことそっち方面の妄想については傑出していると自負している。
そう豪語出来るだけの努力だってしてきた。
しかし、僕は現状に満足などしていない。
僕なんて、まだまだ未熟者だ。
たかだか田舎の小さなお山の大将になったところで、いい気になれるわけがない。
僕は日本――いや、世界トップクラスの妄シストを目指しているのだ。
そのために、日々涎の垂れるような研鑽を続けているし、高校卒業後は妄想の最先端を学ぶべく、妄想大学妄想部妄想学科に進学する予定だ。
しかしそんな僕であっても、実戦経験の少ない僕は、実際に先の三つの言葉が揃ったシチュエーションに直面しても、妄想通りの展開にはなかなかどうして運ぶことが出来ないのであった。
僕は今、放課後の空き教室で媛野唯と対面している。
二人きりで。
あわよくば――である。
僕の身長は成人男性の平均よりやや低く(つまり百七十センチに満たない)、媛野は成人女性の平均よりやや高い(つまり百六十センチを超えている)ので、僕たちの視線はほぼ平行に交わる。
はずなのに。
媛野の視線は斜めに下降し、僕を貫きそうな鋭さで睥睨している。
何を隠そう、僕は今土下座をしているのだ。
妄想とは大分違う展開ではあるけれど、土下座をしながら美人に蔑んだような目で見られるのも、これはこれで――。
などと場もわきまえずに妄シストとしての本領を発揮していると、媛野の眼光が一層鋭くなって、
「死んでください」
と、ご褒美――否、辛辣な一言を貰ってしまった。
あの優秀にして聡明な媛野を、こうも憤慨、失望させてしまったのは、神の悪戯と僕の悪戯――つまり、不幸と愚行による僕の運の悪さと出来の悪さがもたらしたものだった。
ゆえの土下座である。
これ、どうにかなるのかな。
とは言えどうにかしないと、魅子に怒られてしまうんだけど。
後僕に出来ることなんて、せいぜい、服を脱いで全裸で媛野の足を舐めるくらいしかないんだけど。




