あかつきエレファント 其ノ捌①
雑談以外何もなかったと言いながら。
ちょっと補足、的な感じで振り返るような雰囲気を出しながら。
蓋を開ければ結構な紙幅を費やして、媛野との邂逅について語ってしまった。
やっぱり美女がいると捗るんだよな。
美女、ばんざーい。
まぁ人生、思い通りにはいかないもんだからさ。
広い心で、臨機応変に、柔軟に生きていこうよ。
それでも困難の壁に阻まれて、思うように進めなくなる時もあるだろう。
でも大丈夫。
美女が全て解決してくれるから。
上手く纏めようとしたけれどむしろ逆効果で取っ散らかりまくったこの状況も、美女の魅子さんがきっと解決してくれるはず。
というわけで、七日目。
本当の本当に、七日目。
「念には念をと七日も掛けたし、さすがに大丈夫じゃろ」
相変わらずの巫女姿で、片手にどら焼きを持った魅子はそう言った。
僕は結局、というか予想通り、七日連続でコンビニに行った。
もはや通ったという表現の方が正しいのかもしれない。
一週間通ったことで、深夜のシフトが分かってしまった。
深夜は客が少ないからかワンオペのようで、僕は四人と顔を合わせた。
そのうち三人は二回見た。
つまり、三人は週二回、一人は週一回、深夜勤務しているということだ。
至極どうでもいい情報である。
ついでにもう一つどうでもいい情報を上げると、僕はどら焼きを二日に一回買うはめになった。
魅子はやっぱり、どら焼きが好きらしい。
このまま通い続けると常連の仲間入りをしてしまって、僕が『ドラえもん』というあだ名を付けられそうなので、今日で終わりにしてもらいたいところなのだけれど。
そろそろ僕の財布が悲鳴を上げそうだし。
「大丈夫って、何が大丈夫なんだよ」
「除霊じゃ」
どうやら魅子は、僕に霊が憑いていることを忘れていなかったようだ。
僕は胸を撫で下ろす。
「してくれるのか?」
「まぁの、友達じゃし。お菓子くれたしの」
除霊って実際、どれくらい取られる――もとい、払わないといけないもんなんだろうな。
今までこういうことに縁がなかったからイマイチ分からないけれど、イメージ的には、少なくとも福沢諭吉――今は渋沢栄一だっけ――は必要そうなんだよな。
そう考えると、たかだか一週間お菓子を買っただけで霊を祓ってもらえるのは、かなり得しているような気がする。
相場が分からないから何とも言えないけれど。
友達割ってことかな。
「ありがとうございます。……それで、具体的にはどうするんだ? 僕は何をすればいい?」
「儂が何をするかは説明がめんどくさいから省くとして、貴様は目を閉じておくだけで良い」
「え、それだけでいいのか?」
「良い。じゃが、途中で目を開けるなよ」
「開けるとどうなるんだよ」
「死ぬぞ」
「死ぬのかよ! 怖いな。絶対開けないと誓うよ」
「噓じゃけどな」
噓かよ!
「こんな時に嘘はやめろよ。信じちゃうだろ」
「すまんすまん。つい、うっかりじゃ。じゃが、途中で目を開けると除霊に失敗してしまうからの、同義みたいなもんじゃろ?」
「さすがに同義ってことはないけど。……まぁ、言わんとしてることは分かったよ。途中で目は開けない。約束するよ」
「それで良い。早速始めるかの。貴様、儂の前にひれ伏せ」
「え?」
「違った、正座じゃ」
動作としては同じようなもんだけど。意味が全然違うんだよな。
危うくひれ伏すところだったぜ。
僕は魅子の前で、正座の姿勢になる。
「目を閉じよ」
良かった。『人生の幕を閉じよ』とか言われなくて。
僕は言われた通り、ゆっくりと目を閉じる。
目を閉じた途端、魅子が何をするのか聞けていないことを思い出して、一抹の不安を覚える。
が、後の祭りだ。
今ここで目を開けて、既に除霊が始まっていたら一巻の終わりだ。
自分がビビったせいで除霊に失敗されては、目も当てられない。
僕は腹を括って、誓った通り目を閉じ続ける。
途中、魅子がブツブツと呟いていたけれど、何を言っているのかは分からなかった。
少なくとも、日本語ではなかった。
「終わったぞ。目を開けよ」
どうやら終わったらしい。
魅子に言われた通り、目を開ける。
「どうじゃ、気分は。ないとは思うが、どこか痛いとかそういうのもないか?」
「あぁ、特には。別段変わったところはないと思うけど」
「そうか。体が軽くなった感覚もないか?」
言われて僕は、肩を回してみる。
「んー、どうだろ。そう言われれば軽いような? って感じかな。……これ、成功してんのか?」
「なんじゃ、儂を疑っておるのか? たわけが。儂が失敗なんぞするわけないじゃろうが。成功も成功、大成功じゃ」
ふんっ、と鼻息荒く腕を組んで僕を見下ろす。
「いや、そんなつもりはなかったんだけど……。何かこう、劇的に体の調子とかが変化するもんだと思い込んでたから、ちょっと拍子抜けしたというかさ。成功したのなら良かったよ、ありがとうございました」
僕は素直に礼を言って、頭を下げた。
当然だ。
驚愕の友達割によって、破格の値段で除霊してくれたのだから。
感謝はいくらしてもしすぎることはない。
むしろ、やりすぎくらいが丁度いい。
「良い良い。持ちつ持たれつ、助け合うのが友達じゃからの。今度儂に何かあった時は、助けるんじゃぞ」
「あぁ、もちろん。僕に出来ることなら喜んで手を貸すよ」
「頼もしいの、期待しとるぞ」
「ところで魅子」
「なんじゃ?」
「除霊が成功したから知らなくてもいいと言えばいいんだけど、まだ時間もあることだし、僕に憑いてたのがどんな霊だったかとか、教えてくれないか?」
「良いぞ」
意外にもあっさりだった。
案外、本当にネタバレを気にしていただけなのかもしれない。
「じゃあ、そうだな……、まず、どんな霊だったのか教えてくれ」
「象じゃ」




