あかつきエレファント 其ノ漆③
「え? 何その質問。クラスメートなんだから知ってて当然でしょ? それに去年も一緒だったんだから」
その通り。
何を隠そう、媛野とは一年の時も同じクラスだったのだ。
控えめに言って、最高。
何があるってわけでもないのに、美人が同じクラスにいるだけで『学校って悪くねーな』って思えるよな。
捗るしな(何がとは言わない。考えるな、感じろ)。
「いや、ほら、僕って学校じゃ無口だし、一人でいることが多いから、存在自体を認識してない人が多いだろうなと思って」
「古門くんの存在自体を認識していない人はさすがにいないと思うけど。あと、『一人でいることが多い』じゃなくて、『いつも一人』だよね」
媛野、意外とハッキリ言うね。
「どうして? 友達いないの? あ、もしくはいらない?」
凄い速球、豪速球。
大谷翔平ばりだよ。
心にグサッと来たよ。
もしかして、ナイフ投げた?
「いらないとは思ってないんだけど……」
「じゃあ、いないんだ」
媛野さん? これ以上傷口を広げないでくれるかな?
致命傷になっちゃうよ?
もう学校行けなくなっちゃうよ?
不登校になっちゃうよ?
「学校にはな」
最近出来たばっかりだけどな。
しかも、その一人だけ、だけどな。
「ふーん。私多分、古門くんと話したのは今日が初めてだと思うから、性格まではよく分からないんだけど、顔は悪くないよね。鬼みたいに怖いってわけでもないし、ゾンビみたいに醜いってわけでもないし、生ゴミみたいに臭いってわけでもないし」
慰められてるのか貶されてるのか、よく分からんフォローだな。
さっきからこう、配慮に欠けるというか、オブラートに包むのを忘れる節があるような気がするんだけど、こいつこそ友達いるんだろうか。
まぁ普通にいるんだろうけどさ。
「でも、何となくだけど、重苦しいというか、暗いというか……禍々しい、だとちょっと言いすぎな感じがするし……うーん、名状し難いな。私の拙い語彙力ではとても表現しきれないんだけど、言いたいことは伝わるよね? そういう雰囲気というかオーラみたいなものが、古門くんの周りに漂ってる感じはするんだよね」
「要は、近寄り難いってことだろ?」
「簡単に言っちゃうとね。でも私的には、その表現はそぐわないんだよね。古門くんと話してみて分かったけど、古門くん自身には近寄り難くなるような原因がないんだよ。顔も性格も怖くない。なのに近寄り難い。そんなこと、有り得るかな? 少なくとも私は、古門くんが初めて」
『古門くんが初めて』か。
なんて甘美な響き。
こんな美人に言われちゃ、たまらないぜ。
今夜は眠れそうにないな。
「……実際僕がそうなんだから、有り得るんだろ。それに顔はともかく、性格が怖くないってのは僕と話してみないと分からないんだから、どんな性格か分からないっていう不安とか恐れが、近寄り難い幻想でも作り出してたりするんじゃないか? 自己防衛みたいな感じでさ。……まぁ、専門家でもなんでもないから知らんけど」
「うーん、理解はするけど、納得はしかねるって感じかな。って、偉そうなこと言ってるけど、私も専門家ではないし一介の高校生だから、答えなんて分かりようもないんだけどね。それに、私の感覚そのものがおかしいって可能性も十分あるしね。むしろ、そっちの方が有り得る」
あはは、と媛野は自虐的に苦笑した。
「私、そろそろ帰るね。あんまり遅くなっちゃうと親が心配するし」
またね、と手を振りながら媛野は帰っていった。
僕はそれからどら焼きを買って、神社跡に戻った。
「遅いわ! 貴様、どこで油売っとったんじゃ!」
開口一番に怒られた。
想定外だったとは言え遅くなったのは事実なので、甘んじて受け入れる。
が、言い訳――弁解はさせてもらった。
『媛野唯』という『成績優秀な女子高生』が『深夜』に『血塗れのナイフ』を持って歩いていたことを強調して、遅れた理由を説明した(後半の雑談は不要だと思ったので全カットした)。
荒唐無稽とまではいかないまでも、にわかには信じ難いし、何より作り話っぽい。
『冗談は顔だけにせんか』と一笑に付されると思っていたのだけれど、意外にもそうはならなかった。
「ほう、そうか。そんなことがあったんか。よう殺されずに済んだの」
「やっぱそうだよな。ミステリなら間違いなく殺されてるよな」
「遅刻の言い訳がしょうもなければ、儂が貴様を殺しておったわ」
「お前が殺してたのかよ!」
どら焼きが遅れたくらいで人を殺すな。
どんだけ短気なんだよ。
それなら最初から自分で買って来いよな。
まぁ、言わないけどさ。
「一回そやつに会っておきたいの。ちょっと気になることがあるんじゃ」
「気になること? なんだよそれ」
「それは言えん」
そうだった、こいつ秘密主義だった。
そこまで気になるわけでもないから、いいけどさ。
「で、会えるのかの?」
「媛野の言いぶりだと、次の日が学校だとダメっぽいから、金曜か土曜なら調整の余地ありって感じだと思うけど」
「そうか。儂はいつでもウェルカムじゃから、調整は任せるぞ」
「分かった。今度訊いておくよ」
「あ、じゃが、先に貴様の件を片付けるのが先じゃから、調整は保留じゃ。折を見て儂が頼むから、今は心積もりだけしておってくれ」




