あかつきエレファント 其ノ漆①
七日目。
ようやく、やっと、ついに、七日目である。
別に苦行に耐え忍んでいたわけではないので、解放感を感じているとか、晴れ晴れとした気分だとか、そういうことはないので、表現としては少々大袈裟かもしれない。
ただ、皆さんはもうお忘れかもしれないが、僕は霊に取り憑かれている。
魅子はそれを教えてくれたのに、それ以外のことは教えてくれず、僕は生殺しにされていたのだ。
今日その件に決着が付く――はずなので、そのことを加味すれば、トータルで丁度いい塩梅になるのではないだろうか。
多少の過不足はご愛嬌、ということで。
三日目から六日目がすっ飛んでいることについて一応触れておくが――飛んでいることが何よりの証明ではあるのだけれど――それはひとえに、語る必要がないほど、しょうもない雑談しかしていないからである。
本当に、雑談以外何もしていない。
日を追うごとに霊の何かについて語られ、少しずつ何かが明らかになっていくのかと期待していなくもなかったのだけれど、見事に、一つも、何も語られなかった。
『おいおい教えてやる』と言っていたのは、結果として嘘だったのだ。
おいおい、という感じである。
一日目と二日目のように、しょうもない会話を延々だらだらと語ったところで、皆さんを退屈にさせてしまうので、無駄な部分は省略したというわけだ。
タイパを求められる現代において、無駄を省略することはとても重要なことである。
と、現代に迎合するようなことを言ってみたけれど、無駄と言うなら、この作品そのものが無駄だと判断されてお蔵入りになってしまう未来がありありと浮かぶのだけれど。
自縄自縛。
悔悟慙羞。
そんなこんなで、とにかく、七日目。
と思っていたのだけれど、一つ特筆すべき出来事があったことを今更ながらに思い出したので、先にそちらを語っておこう。
それは五日目のことだった。
つまり、一昨日。
僕は例の如く、コンビニへと向かっていた。
――もちろん、どら焼きを買いに、である。
五日目(しかも連続)ともなるとルートは見慣れてしまうし(多少遠回りしてルートを変えることも出来ないではなかったが、魅子を長いこと一人で待たせるというのも何となく気が引けて、同じ道を選んでいた)、どら焼きを買うのも三回目になるので少々退屈――というか、ぼんやりと歩いていた。
ゆえに僕は、気づくのが遅れた。
前から女子高生が歩いてきていることに。
そして彼女もまた、こちらに気づいていなかった。
そう言い切れるのは。
「おわっ……」
こんな時間に人――ましてや女子高生が歩いているなどとは露とも思わず、しかも気づいたのが後数歩で正面衝突してしまうような近距離だったので、僕は思わず声を上げてしまった。
『後数歩で正面衝突』であって『正面衝突していない』ところが、いかにも僕らしいよな。
ベタなラブコメだったら絶対衝突してるもんな。
弾みでキスなんかしちゃったりするもんな。
おっぱい揉んじゃったりするもんな。
はぁ、僕はツいてないな。
霊は憑いてるけど。
僕が声を上げた後、彼女もハッとしたような、今まで全く気づいていなかったという体で、顔を跳ね上げたのだった。
沈黙。
予期せぬことが起きたのだ。
お互い状況を――目の前にいるのがどんな人間なのか、敵か、もしくは地球外生命体か――確認する。
その間、僅かに三秒。
最初に口を開いたのは、彼女だった。
「……古門くん」
「……媛野?」
そう。
目の前にいたのは、媛野唯だった。




