君はどこへ行ってしまったのか
千尋が園長に状況を報告した後、園内にいる飼育員全員が緊急招集された。
園長が状況を説明するにつれ、皆の顔色はみるみる青くなり、説明が終わる頃には辺りの空気が緊張と不安で満たされていた。
「というわけで、至急、園内および敷地周辺の捜索に当たってくれ。タイムリミットは一時間とする。以上、解散」
「はい!」
千尋はすぐさま駆け出し、愛車の元へ向かった。
いつもなら愛娘のごとく愛でるところだが、そんな余裕はない。
やや乱暴にドアを開け放って乗り込み、エンジンを掛けるやいなや、アクセル全開で車を走らせた。
リヒトたちはどこにいったのか――。
千尋は車を走らせながら、パニックで焦る心を鎮めつつ、思考を巡らせる。
今の今まで近隣住民や警察から連絡が来ていないということは、まだ人気の多い道には出ていないと考えていい。それにナワバリ意識が高いことや、脱走からあまり時間が経過していないことを考えれば、そう遠くには行っていないはず。捜すのであれば、周辺の茂みが良いだろう。
とは言え、これだけの情報で脱走した虎を見つけるなど、宝くじを当てるに等しい。
千尋はふぅーっと大きく息をつく。
「それでも、捜すしかない」
自らに言い聞かせるようにひとりごち、ハンドルを強く握りしめた。
千尋は車を走らせては茂みに入り、暗闇の中、スマホで辺りを照らしながら、我も時間も忘れて必死に捜索した。
「リヒト! ブルーム! ドナー! ローズ!」
リヒトたちの名前を何度も叫ぶ。
どうかそこに居てほしい――。
その一心で、声が枯れてもリヒトたちを呼び続けた。
叫び続けて喉が潰れてしまい、声が声でなくなってきた頃、ライト代わりにしていたスマホから着信音が鳴った。
画面には『園長』の文字が表示されている。
「はい、菊池です」
「菊池君、お疲れ様。もうタイムアップだよ。気持ちは分かるけど、引き揚げて戻ってきてくれ」
どうやら既に一時間以上経過しているらしい。
「分かりました。すぐに戻ります」
電話を切った後時刻を確認すると、十九時を回っていた。
この後のことを考えると、このまま自分もどこか遠いところへ逃げたくなる。
逃げられたらどれだけ楽だろうか――。
一瞬、現実逃避が頭をよぎったが、千尋は頭を振ってすぐに打ち消した。
実際に今から逃げたとしても、逃げ切れるわけじゃない。今後起きるイベントを若干先延ばしにするだけで、イベント自体はなくなったりしないし、結局は何も変わらないどころかむしろ状況を悪化させるだけだ。
千尋は急いで車に戻り、エンジンを掛ける。
「リヒト、君は僕を置いてどこへ行ってしまったんだ……」
惜別の情を残し、千尋は車を走らせた。




