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第二位、人間  作者: 青野 乃蒼
逆襲の果てに

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49/50

虎太郎が残したもの

――人だ。


そう気づいたときには、足が止まっていた。


ガクガクと震えだす。


息を吸っても吸っても、酸素が入ってこない。


それでも目だけは、その物体に釘付けになっている。



見れば見るほど人だし、コタのような気がしてくる。


そんな、まさか、あり得ない。


二度も同じような光景を目撃するなんて――。



何とか呼吸を落ち着けて、釘付けになっていた目を動かす。


倒れた人の少し奥にも、物体が見えた。光をそちらに向けると、物体は人よりも大きく、すぐに正体が分かった。



虎だった。


それも三頭が横たわっている。


幸い、動く気配はない。


政府の対応がまだ行き届いていなかったのだ。

どこかに身を潜めていたに違いない。


それにしても、今更人を襲って何になるというのか。


少し憤りを感じたからか、足の震えが和らいだ。


このタイミングで足を出さなければ、もう前には進めないような気がした。


勢いに任せて、まだ震える足を踏み出していく。




数歩だった。


たった数歩近づいただけで、分かってしまった。


倒れこんでいるその人の頭には、ふさふさの毛が柔らかそうな、耳が付いていた。


「コタ!」


お腹の子のことなど忘れて、ただ夢中で走り寄る。


必死でコタの名を叫ぶ。


うつ伏せに倒れているコタの肩を引き寄せ、仰向けにする。


「コタ! コタ! ねぇ、コタ! 起きて! 起きてよ!」


肩を揺すり、頬を叩く。


手についていた血がべっとりと頬に付く。


ハッとして、コタの身体に目を移す。


そこで気づいた。


悟ってしまった。



――コタはもう、目を覚まさない。



コタの脇腹は(えぐ)られ、そこにあるはずの肉がなくなっていた。


半円形にむしり取られているのを見て、一目でこの虎に食いちぎられたのだと分かった。


眠るコタを抱きしめる。


涙が溢れだす。



どうして。


どうして二度もこんな目に遭うのか。


虎の脅威は去ったのではなかったのか。


なぜコタが、なぜ母が、なぜわたしの家族ばかり――。


どうせなら私を殺せば良かったのに。


なぜわたしを一人にするのか。


一人で生きたってなんの意味もない。


もう嫌だ、嫌だよ……。


ねぇ、コタ。わたしを、一人にしないでよ……。



『凛は一人じゃないよ』



コタの声がした。


腕を緩めて、コタの顔を見る。


しかし、コタの表情は何一つ変わっていない。


「コタ、コタ!」


もう一度肩を揺すってみるが、やはり反応はなかった。


確かにコタの声がしたはずなのに……。


今の状況を受け入れられず、気がふれて幻聴でも聞こえたのだろうか。



ふと、内側からお腹が動く感触があった。

続けざまに何度も動く。


我が子の胎動。


わたしとコタの子――。


そうだ。わたしは一人じゃなかった。


あれは幻聴だったかもしれない。

でも幻聴でも妄想でも、何でもいい。


きっとコタが伝えたかったんだ。


わたしは一人じゃないと。


わたしたちの子がついていると。



もう一度コタを抱きしめる。


コタ、安心して。


この子はわたしが絶対に守るから。


死んでも離さないから。



お腹がまた、大きく動いた。

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