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第二位、人間  作者: 青野 乃蒼
逆襲の果てに

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48/50

嫌な予感

安定期に入って数週間が経ち、お腹の大きさがかなり目立つようになってきた。

それは、お腹の赤ちゃんがすくすくと成長している証でもある。


時折、お腹を叩いたり蹴ったりする。


胎動を感じる度に嬉しさが込み上げてくる。


産休にはまだ早いのだが、そろそろ休ませてもらおうと思い始めた。

かなり長い休みになってしまうので、一旦辞めた方がいいのかもしれないとも思う。


お腹が大きくなって、長時間歩いたり立ちっぱなしの状態がしんどくなってきた。


家からコンビニまではかなりの距離があるし、行きと帰りで二回あると思うと、出勤日は結構憂鬱だったりする。


コタも早く休めと言っているし、幸い自分が当面働かなくても生きていけるほどの蓄えはある。


考えれば考えるほど、休む方向に意識が向いていることに気づく。


よし、休もう。


明日出勤したときに、店長に相談しようと決めた。




それにしても、今日はコタの帰りが遅い。


いつもなら十八時には帰ってくる。


稀に残業することもあるが、その時は必ず連絡をくれる。


スマホを確認するが、やはり連絡は入っていない。


何かあったのだろうか。


自転車のチェーンが外れたとか?


妊婦さんが(うずくま)ってて介抱してたとか?


そんなことならいい。

でももし、事件に巻き込まれていたら?


命の危機に瀕していたら――。



心配になって、凛はメッセージを送った。


『お疲れ様、今日は残業?』


『なにかあったの?』


『ねぇ、返事してよ』


何通送っても、メッセージが既読になることはなかった。


今度は電話を掛けてみる。


コール音は鳴る。

しかし鳴り続けるだけで、一向に取ってはくれなかった。


さすがに怪しい。


不安になってきて、今度は松本木工所に掛けてみた。

何度目かのコール音がして、電話が繋がった。


「はい、松本木工所です」

「あ、松本さん。凛です。コタ、虎太郎はいますか?」

「おぉ、凛ちゃん。久しぶりだね。それで用件はなんだっけ?」

「虎太郎はいますか?」

「虎太郎? 虎太郎なら十七時前に帰ってったけど」


時間を言われて、ふと時計を見る。


時計の針は十九時を回っていた。


松本木工所を出て二時間は経っている。


今まではこんなこと、一度もなかった。

さらに不安が募っていく。


「もしかして、まだ帰っとらんのか?」

「はい、まだ帰ってなくて。それに連絡も取れなくて」

「なにぃ? こんな可愛らしい嫁さんを心配させて、けしからんやつやのー。明日来たらどやしつけといたるわい」

「ありがとうございます。そうしてください。それでは、失礼しました」


電話を切ってすぐ、凛は玄関を飛び出した。




嫌な予感がした。


子どもの頃のあの光景が、フラッシュバックする。


凛は頭を振って、それを掻き消した。




外はもう暗闇だった。


懐中電灯を片手に、お腹の子を気にしながら、一歩ずつゆっくりと歩いていく。


――どうかこの道で、帰ってくるコタと出会いますように。


振り払ったはずのあの光景が、再び頭に浮かんでくる。


絶対にない。

もう二度とあんなことが起きるはずはない。


不安を払拭するように、懐中電灯を左右に振って、道に人が倒れていないことを確認していく。


大丈夫、大丈夫。コタなら絶対、大丈夫。


自分に言い聞かせて、進んでいく。






家と麓の中間辺りまで来たところで、進むのが怖くなってきた。


お母さんのようなことにはなってない。


そう思うのに、思えば思うほど足が竦む。


かと言って、ここで引き返しては意味がない。


まだコタには会えていないのだ。




しばらくその場に立ち竦んでいたが、勇気を振り絞って、重い足を前に出した。


少しして、懐中電灯の光が遠くに何かを捉えた。


一瞬、心臓が止まったような感じがした。


全身から冷や汗が噴き出し、鼓動が加速度的に早くなる。



怖い。見たくない。



そう思うのに、体は動いた。


一歩ずつ、ゆっくり近づいていく。


徐々に物体が大きくなる。輪郭が見えてくる。




――人だ。

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