必ずここに帰ってこい
交番に行った日は翌日に連絡があったが、管区警察局に行った後に連絡があったのは、それから二週間も経った頃だった。
電話は佐藤からで、結果は期待通り、『賛成、協力する』ということだった。
既に決行に向けて各種の計画、準備を進めているらしい。
粗方の方針がまとまれば連絡してくれるとのことだった。
なぜこんなに連絡が遅かったのかを聞いてみると、専守防衛国家の日本において、こちらから攻撃を仕掛けるための、憲法の解釈が――と言っていた。
詳しいことはあまり興味がなかったし聞いても分からないと思っていたら、全く耳に入ってこなかった。
とりあえず、色々と手続きが面倒だったのだろうと理解した。
それから二日後、佐藤から再び電話があった。
用件は二つだった。
一つは方針がまとまったので説明のために警察庁まで来て欲しいということ。
もう一つは、決行当日まで警察庁がある東京に滞在して欲しいということ、だった。
即答したいところではあったが、仕事のことがあるのでそれはできず、その日は電話を切った。
虎太郎は佐藤から電話があった翌日、仕事終わりに松本に声を掛けた。
「松本さん、少し相談があるんですけど、いいですか?」
「おぉ、ええぞー。虎太郎から相談なんか珍しいのー」
昼食を食べるときの、いつもの定位置に二人して座る。
「明日から長い間、お休みをいただきたいんです」
「なんかあったんか?」
「実は――」
これまでの経緯をかいつまんで、松本に事情を説明した。
もちろん、自分が獣人であることも打ち明けた。
「そうか、虎太郎はわしら人間のために、戦ってくれるんか」
「いえ、そんな大層なことじゃないです。これはただの復讐ですよ。母の仇を討つための」
「そうやとしても、結果的にはわしらのためになるやろ? そんなら、胸張ってわしらのために戦うんやって思っとったらええ。それにわしからもお願いしとく。わしらのために、虎を討ってきてくれ。頼む」
松本が頭を下げた。
そこまでされると、もう否定はできなかった。
「松本さん、頭を上げてください。……分かりました。仇討ち半分、皆さんの願い半分で戦ってきます」
「おぉ、その意気や。それともう一つだけ頼まれてくれんか?」
「はい、何でしょう?」
「どれだけ休んでもかまわんけど、必ずここに帰ってこい。そんで、わしに報告してくれ。やりましたよって」
松本の言葉に、虎太郎は涙がこみ上げてくる。
松本は、自分の居場所がここにあることを感じさせてくれた。
別に死んでもいいと思っていたわけではない。
それなのに、自分を待っていてくれる人がいるだけで、こんなにも生きたいと思うのだと教えてくれた。
松本の頼みは、絶対に叶えなければならない。
「分かりました、約束です。必ず、ここに帰ってきます。そしたらまた、ここで働かせてください」
「当たり前や! 休んだ分、しっかり働いてもらうからの!」
松本は虎太郎の背中をバンッと叩いて、虎太郎を送り出した。




