覚悟していても痛いものは痛い
男は竹刀を数本持って戻ってきた。
黒田の指示で、その男が竹刀を振るう役に決まった。
男が竹刀を持って正面に立つ。
警察というだけあって、構えはしっかりしたものだった。
黒田が証拠資料として動画を撮らせて欲しいというので、了承した。
黒田がビデオカメラのボタンを押した。
「では、どうぞ」
虎太郎は合図を出して、シールドを作動させる。
「参ります」
男はそう言って、鋭く竹刀を振り下ろした。
バシンッという音が響く。
竹刀は容赦なく、虎太郎の面を捉えた。
しかし、痛みは全く感じない。
男は一瞬驚いた表情を浮かべたが、その後に続けて腕や脇腹、足などにも竹刀を振るった。
しかしこれも、痛みは全く感じなかった。
「ご覧のとおり、シールドが作動していますので、私の身体には当たっていませんし、痛みも感じません」
虎太郎は手や足をぐるぐると回して見せる。
男たちから野太い感嘆の声が漏れた。
制約通り、制限時間が過ぎてシールドが解除される。
「では次に、先ほどよりも強い意志――そうですね、敵愾心のようなものをイメージしてください。準備ができたと思ったら打ってきて構いません」
そう言われても、相手も環境も変わらない状況において、そのような感情を抱くのは難しいだろう。
でもここは、初手との違いをはっきりと本人に自覚しておいてもらわなければならない。
そうでなければ、証明にはならない。
だから敢えて、失礼を承知で野次を飛ばした。
「早くしろ、鈍間。デブ、豚、穀潰し」
男の目に、微かに敵意が宿った気がした。
直後、竹刀が頭を直撃した。
「いったああああぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!」
一瞬、意識が飛びそうになるほどの衝撃だった。
虎太郎は咄嗟に頭を手で押さえる。
痛みのあまり、その場で跳ね回る。
男たちはまた野太い感嘆の声を上げている。
しばらく跳ね回った後蹲っていると、竹刀を振るった男が近寄ってきた
「大丈夫ですか? 結構力を入れて振ったので、痛かったですよね、すみません」
「……いえ、こちらこそ煽るためとはいえ、失礼なことを言ってしまいました」
「いえいえ、おかげで強い感情を持つことができて、躊躇わずに竹刀を振ることができました」
男が虎太郎に手を伸ばす。
虎太郎が片手で頭を押さえながら男の手を掴むと、男はゆっくりと虎太郎を引っ張り起こした。
「二人ともご苦労だった。実演してくれたおかげでよく分かった。見えないがゆえに完全に信用するのは難しいが、それを言っていては仕方がない。ただ、虎太郎くんの反応が演技だとは思えない。そこを鑑みて、一定の信用はしている。動画も撮ったことだし、証言とともに、上に報告しよう」
そこで言葉を切った黒田は、柏手を打った。
「よし、これで以上、解散! 各自仕事に戻ってくれ。この件は私が引き受ける。何かあれば追って連絡する」
黒田の宣言を受けて、スーツ姿の男たちはぞろぞろと会議室を出ていく。
「虎太郎くん、凛くん、今日はありがとう。君たちの話が聞けてよかった。後は佐藤巡査長の指示に従ってくれ。佐藤巡査長、よろしく頼む」
「承知しました。じゃぁ、虎太郎くん、凛さん、行こうか」
凛と虎太郎は会議室を出る前、黒田に会釈をした。
黒田は手を挙げて、それに応じた。




