僕を攻撃してください
こういうことは時間が掛かると思っていた。
しかし、予想に反して、結果は翌日に届いた。
昼間、仕事をしているとスマホが鳴った。
見知らぬ番号からの着信だった。
もしかして、昨日の警官からでは? と淡い期待を抱いていると、その期待通り、警官からの電話だった。
「昨日の話を上に相談したんだけど、もっと詳しく話を聞かせて欲しいってことになってね。だから、ご足労をかけるんだけど、指定の場所まで来てくれないかな。場所は追って連絡するよ」
「分かりました。後ほど伺います」
結果としては、交渉継続ということになる。
つまり、切り捨てられなかった。
自分の話を聞いて、検討の余地があるとの判断になったということだ。
それが単純に嬉しかったし安堵した。
指定されたのは管区警察局だった。
虎太郎は松本に事情を説明して早退させてもらい、一度家に帰った後、凛とともに電車に乗った。
ロビーに着いて、虎太郎は警官に電話を掛けた。
すぐに警官がやって来て、二人を部屋まで案内した。
その部屋は、広々とした会議室のような場所で、中にはスーツ姿の厳めしい顔をした人たちが、円卓を囲むようにずらりと座っていた。
「どうぞ、そちらに掛けてください」
重々しい、腹の底に響くような声だった。
言われた通り、入口に一番近い空いている席に二人は座った。
「私は局長の黒田だ。今日はよろしく頼む。話は佐藤巡査長から聞いている」
佐藤巡査長というのは、警官のことを言っているのだろう。
「虎太郎くんといったね。君は、虎と人間の間に生まれた獣人だと聞いたが」
「はい、その通りです」
虎太郎は証明するため帽子を取る。
黒田が息を吞む気配があった。
ただ、声は出さず、静かに耳を見つめていた。
「確かに、その耳が何よりの証拠だな。ありがとう。さて、本題に入ろう。君は、虎に武器を通用させる方法を語ってくれたが、この方法で本当に通用するようになるのかね?」
「はい。この方法なら通用します」
「それを証明することは?」
「それは……」
言葉に詰まった。
証明するのは難しい。
証明のために虎を殺せば、それが虎の世界で広まり、こちら側の準備が整う前に大規模な襲撃を喰らう可能性が高い。
そうなれば、もうチャンスはやってこないだろう。
「すまない。意地悪な質問をしてしまった。ただ、我々も君の話を鵜吞みにするわけにはいかないのだよ。人の命に関わるからね。それに、君が虎側のスパイだって可能性もある」
「それはありません!」
凛が机を思い切り叩いて立ち上がり、すごい剣幕で怒声を上げた。
「私たちは虎に母を殺されたんです! 何の罪もない母を殺されたんです! 私たちがスパイだなんてあり得ません!」
力いっぱいに握りしめられた凛の拳が震えている。
目には怒気が孕み、射貫くように黒田を睨みつけていた。
こんなに怒りを露にする凛を、虎太郎は初めて見た。
「すまない。非礼を詫びよう。許してほしい」
「分かってくれればいいです」
凛はそう言って、ゆっくりと椅子に座った。
黒田が咳払いをする。
「……話を戻そう。やはり、我々としてはその方法を信用する材料がほしい。何かないだろうか」
何かと言われても、何もない。
実際にその方法で虎を攻撃してもらうことが、最良にして唯一の材料だ。
虎太郎は何も思い浮かばず、ちらと凛を見る。
凛も顎に手をついて、必死に考えているようだった。凛を眺めていると、ふと凛から言われた言葉がフラッシュバックした。
――だって、コタにはその耳があるんだから。
それで閃いた。
これなら、信用してもらえるかもしれない。
「では、僕で試しましょう。僕を攻撃してください」




