山奥の廃屋
平地は田畑が広がっていて、民家はそう多くなかった。
元居た家の周りには、戸建てはもちろん、アパートやマンション、高層ビルなんかが所狭しと建っていて、閉塞感を感じるほどだった。
なので、むしろとても少なく感じる。
その反面、倉庫と思われる建物は多かった。
ただ、そのどれもが真新しかったり、使われている形跡があった。
やがて、風景が田畑から木々に変わりはじめる。
背の高い杉の木が影を作り、太陽が出ているにも関わらず、足元では冷気を感じる。
さらに奥へと進み、少し山を登ると、木々の合間から建物のようなものが見えた。
「お母さん、あれ」
虎太郎が指差す先を、母も見つめる。
「あら、あんなところに建物があるわね」
「行ってみよう!」
虎太郎は駆け出し、茂みをかき分け進んでいく。
近づくと、ようやくその建物の全容が見えた。
おそらく民家だったのだろう。でも今はそうではないと一目見て分かった。
外壁のほとんどが青々としたツタに覆われ、一階の窓ガラスの一つが割れている。
カーテンは引き裂かれたかのようにズタズタだ。
心霊スポットと言われても違和感がないくらいには、怪しい雰囲気を放っている。
「あった! お母さん、あったよー!」
虎太郎は、まだ辿り着いていない母に手招きをして急かす。
「大きいわね」
「これ、廃屋だよね。使っていいよね」
「ここなら、いいと思うわ」
「倉庫にしようと思っていたのに、思わぬ大収穫だね」
「そうね。前の住人の方に感謝しないと」
ようやく母が、虎太郎の元に着いた。
少し息が弾んでいる。
「中に入ってみようよ」と言いながら、虎太郎は母の返事を待たずに玄関に向かう。
引き戸に手をかけて開けようとしたが、開かなかった。
しかし、鍵がかかっているような感触はなかったので、次は力を込めて開けてみる。
すると、キキーッと不快な金属音を立てながら、半分まで開いた。
やはり鍵はかかっていなかった。
どうやら建付けが悪くなっているだけらしい。
虎太郎がもう一度力を込めると、戸は全開になった。
土間には婦人用の靴が一足置いてあった。
年配が好みそうなデザインをしている。
もしここに老人が一人で住んでいたとすれば、色々と大変だったんじゃないだろうか。
虎太郎は以前の住人に思いを馳せながら、土足のまま家に上がった。
母は律儀に「お邪魔します」と言ってから入ってきた。
玄関を上がってすぐの右手に、開け放たれた扉があった。
中に入ると、そこは二十畳ほどのリビングダイニングだった。
ダイニングテーブルや食器棚、ソファ、冷蔵庫などの家財が残されたままになっている。
床には足跡がくっきりつくほどの土埃が堆積していて、住人が長年不在であったことを物語っていた。
「そのまんまだね」
「そうね、親族の方がそのまま放置しちゃってるんでしょうね」
「家具、ボロボロだけど使えそうじゃない?」
テーブルやイスなどの木製のものは朽ちていて厳しそうだが、ソファなどは見た目さえ気にしなければ使えそうだった。
「えぇ、少し掃除すれば使えると思うわ。使えるものは使わせていただきましょう」
虎太郎たちは出立してから三日目にして、ようやく住居を手に入れることができた。




