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第二位、人間  作者: 青野 乃蒼
逆襲の果てに

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競人

虎太郎と優子は、広間でくつろいでいた。


すると、父が尻尾を振って上機嫌にやって来た。



ルナたちが出ていったあの日、三人を追うようにジュリアも出ていった。


父に聞いた話では、これ以上人間と同じ空間で生活するのは耐えられないと、事前に父に話していたらしい。


だからあの日以来、あの牢獄で生活することはなくなった。



「虎太郎、ちょっと出掛けよう」


特にすることがなかった虎太郎は、一も二もなく賛同した。


「いいよ、どこに行くの?」

競人(けいじん)でも見に行こうかなと思ってる」



競人。



虎太郎は初めて聞く言葉だった。

それなのに、その言葉の響きに、何となく不穏な感覚を覚えた。


微かに動悸がする。


それでも虎太郎は、競人がどんなものか、見てみたかった。


「ふーん。競人が何なのか分からないけど、とりあえず行くよ」

「行けばすぐに分かるさ。じゃぁ優子、行ってくる」

「いってらっしゃいませ、エイデンさん」


母は元々、この家のメイドだったらしい。

だから、父に対する口調がそのときのままになっている。


「あれ? お母さんも一緒に行かないの?」


単純な疑問だった。

出掛けるのだから、母も当然一緒だと思っていた。


その問いを聞いた父は、少し困惑した表情を浮かべる。


「ちょっと優子は連れていけないかな」

「そっか。分かったよ」


母を連れていけないような場所に行くのだなと、虎太郎は少し身構えた。

でも、行けばその答えが分かるのだろうと、あえて深堀りはしないことにした。


「お母さん、いってきます」

「いってらっしゃい」


母は笑顔で見送ってくれた。


いつもの笑顔のはずなのに、今日の笑顔には少し(かげ)りがあるように見えた。






競人が行われている競人場に向かう道すがら、父が競人について教えてくれた。


競人とは、端的に言えば、競馬の人間版ということらしい。

基本は、競馬と同じように距離別、クラス別にレースが催される。


虎の世界には貨幣が存在しないためギャンブルはないが、入場時に参加フィーとして一定の食肉を納めた者は、馬券ならぬ人券を取得でき、当たった人券はレース終了後にプレゼントと引き換えることができる。


このプレゼントが当たるかどうかのドキドキ感とともにレースを楽しめるのが、競人の醍醐味なのだ、ということだった。


ただ今日は、自分に競人の存在を知ってもらうために来たので、人券は取らないらしい。


要は、今日は虎太郎の社会科見学のようなものだった。


「お父さん、今日は僕を連れてきてくれたけど、ルナたちも連れてきたことがあるの?」

「あぁ、もちろん」

「ルナたちは競人を見て何か言ってた?」


虎太郎はまだレースを見ていないが、父の話を聞く限りでは、陸上競技を観戦するのと特段変わりはないのではないかという印象を持った。


だから、レースを見た三匹がどんな印象を受けて、どんな感想を持ったのか気になった。


「うーん。何か言ってたような気はするけど、あまり覚えてないなぁ」


父は言いながら、考え込む素振りをする。


「あー、でも、感想じゃないけど、ジルは興奮してレースを見ていたよ」

「ジルらしいね」

「そうだね」

「ルナは? ルナは何か言ってた?」

「ルナ? んー、覚えてないなぁ。覚えてないってことは、特に何も言ってなかったんだろうとは思うけど。ルナたちの感想が気になるのかい?」

「うん、ちょっとね」


エルとジルは人間嫌いだから競人が好きそうだなと思うが、中立のルナはどう思ったのだろうかと少し気になった。でも父が覚えていないので、知ることは叶わなかった。






「おっ! 着いたぞ、競人場」


父と話しているうちに競人場に着いた。

ずっと話していたので、とても早く感じた。


競人場の外にいるときから感じてはいたが、中に入ると、一層周囲の目が虎太郎に集まっている。


それは虎太郎の外見のせいでもあるし、隣にいる父のせいでもあった。


何を隠そう、父は現皇帝であるローガン・カイザーの長兄なのだ。


長兄なので、本来であれば皇帝になるはずだったのだが、そんな堅苦しいものにはなりたくないと地位を放棄し、挙句人間との間に子を()した。


故に、父は虎たちの間では奇人ならぬ奇虎として世間に認知されている。

そして、その子どもが自分であることも世間の知るところなのだ。


そんな二人を目の当たりにすれば、凝視してしまうのも無理からぬことだろう。

ただ、その視線の中には、単なる好奇ではなく、怒りに満ちた睥睨(へいげい)のようなものもあった。


それはきっと、自分が人の姿だからだ。


父が母を連れてこなかった理由を虎太郎は理解した。

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