兄姉の旅立ち
祝福と別れの儀式が終わると、次兄のジルは挨拶もそこそこに、外へ飛び出していった。
長兄のエルもそれを追うように飛び出していく。
とうとうこの日が来てしまった。
兄姉の三歳の誕生日。
虎太郎はルナのお願いを叶えようと必死に考えたが、答えは出ないままだった。
「やれやれ、男どもときたら。惜別の情というものがないのかしら」
ルナが、固まった身体をほぐすように伸びをしながら言う。
「ほんとよね。なんで男ってこうなのかしら」
兄姉の母であるジュリアも呆れるようにぼやく。
虎太郎も二人の意見に同意だった。
もうこれまでのように、当たり前には会えない。もしかしたら、一生会えない可能性だってある。
それなのに、ちゃんとお別れしないなんてあり得ない。
「それじゃあ、母さん、父さん、行ってきます」
ルナがジュリアに顔を寄せる。
ジュリアもそれに応じて、顔を寄せ合う。
二人の喉が共鳴するかのように、ゴロゴロと音を立てる。
「気をつけて行くのよ」
「元気でな」
「うん、行ってきます」
ルナが両親に背を向ける。
そして歩き出す。
虎太郎は今日までに答えを出すことができず、そのことが悔しくて、ルナに申し訳なくて、俯いていた。
ルナの顔を見ることができなかった。
「コタ、顔を上げて」
ルナの優しい声がする。
虎太郎が顔を上げると、ルナと目が合った。
ルナの目は穏やかで、それが母の眼差しに重なった。
虎太郎は堪えることができなくなり、声を上げて泣き出した。
ルナは目を見開いて仰天する。
ジュリアと父も驚いている。
「ど、どうしたの? そんなに私が出ていくのが寂しいの?」
「ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい……」
虎太郎は嗚咽まじりに謝罪の言葉を繰り返す。
「なに? どうしたの? なんで謝っているの? ほら、泣いてちゃ分かんないでしょ」
ルナが苦笑しながら、虎太郎の頬を伝う涙をぺろっと舐める。
虎太郎は、首を締めるかのように勢いよくルナに抱きついた。
もう止められなかった。
涙も、思いも。
堰き止めていた全てが溢れだす。
「ルナのお願い、叶えられなかった。本当は今日までに叶えたかったんだ。ルナが旅立つこの日までに答えを見つけて、ルナを安心させたかったのに。でも、できなかった。それが辛くて、悔しくて、申し訳なくて。ごめんなさい。ごめんなさい、ルナ」
ルナは虎太郎が泣いている間、虎太郎をあやすかのように顔を擦りつけていた。
やがて、虎太郎が半ば疲れて泣き止んだ頃、ようやくルナが口を開いた。
「コタ、ごめんね」
「どうしてルナが謝るの?」
「だって、私のお願いのせいでコタを泣かせちゃったんだから。でも、ありがとう。すごく嬉しい。私のために、泣くほど頑張ってくれて。逆に安心したわ」
安心? なんで? 僕は答えを出せなかったのに、ルナはなんで安心するんだろう?
「こんなに必死になって考えられるのだから、きっと来年までに答えが見つかっているわ。うん、絶対見つかってる。だから、安心した。もう心配なんてしてないわ」
「本当に? 本当に、僕は答えを見つけられる?」
「えぇ、本当に。絶対見つけられる。だってあなたは、とっても優しくて素敵な、私の自慢の弟なんだから」
虎太郎の目からは、またもや涙が溢れだす。
「もう、そんなに泣かない。コタは男の子でしょ。これじゃ心配で出ていけないなー」
ルナは呆れるように苦笑しながら、虎太郎を諭す。
最後の意地の悪い一言に、虎太郎は反応せずにいられない。
虎太郎はすぐに泣くのを止め、腕でゴシゴシと顔をこすり、涙を拭う。
「これでもう心配事はなくなったでしょ」
「そうね、もう大丈夫」
「ルナ、今日はおめでとう。それと、今まで本当にありがとう。気をつけて行ってね」
「こちらこそ、ありがとう。あなたの姉で本当に良かったわ。コタ、愛してる」
そう言って、ルナは外へ歩いて行った。
ルナは一度も振り返らなかった。
その姿が見えなくなるまで、虎太郎はルナを見つめていた。
ルナ、僕も愛してるよ。




