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第二位、人間  作者: 青野 乃蒼
国家転覆

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親を置いて先立つバカ息子

「おーい、菊池くん! 菊池くんいる?」

「はい、ここにいます!」


応援に入っている鳥舎で給餌をしていた千尋は、その手を止めて、声の主である園長の方に体を向けた。


少しすると、出入口の扉に園長の姿が見えた。


「菊池くん、早く来て。大変なことになってるよ」

「何ですか? 大変なこととは」


園長が言うのだから間違いなく一大事が起きているのだろう。

ただ、その表情や声色に緊張感があまり感じられない。


なんとなく、園内での出来事ではない気がした。


「大量の虎が大阪に現れたんだよ! もしかしたらリヒトたちかもしれないと思って」

「本当ですかっ!?」

「本当だよ。今テレビでやってるから、すぐに事務室に戻ろう」

「分かりました」


千尋は、他の飼育員に仕事を簡単に引き継ぎした後、すぐに園長と事務室に戻った。


事務室に入ると、既に副園長と秋元がテレビの前に立っていた。


秋元が、千尋を見る。

秋元は親に縋る子どものような表情をしていた。


「千尋さん、こ、これ……」


副園長が避けてくれて、千尋の視界にテレビの画面が映る。


そこには、橋の上に立つ虎たちの姿がアップで映されていた。


「リヒトだ」


一瞬で分かった。


集団の先頭に立っている一頭、あれは間違いなくリヒトだ。

赤ちゃんの時から大事に育ててきた、大切な一人息子。


見間違えるはずなんてない。


千尋はリヒトだと分かった途端、安堵の感情が全身を駆け巡った。

とにかく無事で良かった。


生きていてくれて良かった。


「やっぱりそうですよね」と言いながら、秋元は頭を抱える。


千尋はそんな秋元に目もくれず、画面に釘付けになっている。


目を少し動かすと、リヒトの後ろにブルーム、ドナー、ローズの三頭がいることも確認できた。


「みんないる。みんないます!」


千尋は膝から崩れ落ちそうになった。

両手を膝につくことで、それを何とか堪える。


下を向いた途端、涙がこみ上げてきて、視界が歪んだ。


安否が一番の心配だった。

でも良かった。生きていてくれている。本当に良かった。


園長が背中をさすってくれる。

その手は大きくて、とても温かい。


「良かったね。リヒトたち、無事に生きてるね」


千尋は俯いたまま、こくこくと頷く。


涙を堪えるのに必死で、それが精一杯だった。


「顔を上げて、菊池くん。彼らの行く末を最期まで見届けてあげなくちゃ。それが今の私たちにできる唯一の務めなんだから」


千尋はつと顔を上げた。


それは務めを果たすためではなく、園長の『最期』という言葉が引っかかったからだ。


園長に確認するために顔を上げたのだが、視界に入ったテレビの画面で、その言葉の意味を理解した。


テレビは、先ほどのリヒトたちをアップで映していた画面から、戦況を映すようにルーズした画面に切り替わっていた。


そこには、リヒトたちに向けて銃を構える連合隊の姿が映っている。



これからリヒトたちは殺される――。



これは仕方のないことだ。


死者こそ出してはいないものの、ケガ人は出してしまっている。


人命には代えられない。


親を置いて先立つバカ息子だけど、最期まで見届けてやるのが、今できる唯一の親の務めだ。




千尋は自分に言い聞かせ、画面を見つめる。


その直後、声が聞こえた。


『我々は知っている。貴様らが我らの同胞を殺そうとしていることを。もしもこの計画をこのまま実行するのであれば、こちらも容赦はしない。貴様らのトップ、内閣総理大臣だっていとも簡単に葬り去ることができるのだ。よく考えろ』


テレビの画面からではない。

頭の奥に直接響いてくるような、そんな感覚だった。


「なんですか今の!」と秋元が顔を右に左に忙しなく動かして、皆の顔色を伺っている。


どうやら自分だけが聞こえたのではないらしい。


「何か変な感じがしたね」と園長も、千尋たちの顔を伺いながら言う。


「はい、なんと言いますか。こう、頭の中に直接響くような、そんな感じがしました」

「そうですそうです! 千尋さんの言う通りです! 脳みそがムズムズするような、背中がゾクゾクするような感じがします」


秋元はさすがに大げさな感じがするが、それだけインパクトのある出来事であることは同意する。


その証拠に、テレビに映っているアナウンサーは困惑の表情を浮かべているし、その後ろに見える連合隊も、何となくソワソワしている雰囲気があった。



「撃て!」



そのような中、隊を引き締めるが如く、厳めしい声が響く。

その直後、最前列で銃を構えていた隊員たちが一斉に射撃した。


幾重にも重なった銃声が轟々と鳴り響く。



そして、静寂。



発砲した銃から、微かに硝煙が立っているのが見える。



死んだな。



千尋はそう思った。そして心の中で呟いた。


さようなら――と。

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