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第二位、人間  作者: 青野 乃蒼
国家転覆

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それこそ二次元の世界の話

政府の公表から一日が経ち、一週間が経ち、そして一カ月が経過した。


皆が犯人の動向に神経を尖らせながら日々を送っていたが、この間、事件はおろかその形跡すら見られなかった。


一カ月経って音沙汰がないこともあり、世間では安心感が広がっているようで、政府の追加対策公表直後は『対策が不十分』といった否定的な意見が一定数見られたが、今はほとんど見られない。


ただ代わりに、最初の事件発生から二ヶ月以上経過してもなお、犯人の影すら掴めていないことに対する不満や不信感は強まっている。


千尋も、未だ犯人の痕跡すら掴めていないことに疑問を抱いていた。


もし犯人が脱走させた虎を従えているのだとすれば、現在その頭数は十頭を超える。

その数を引き連れて移動していれば、その光景は間違いなく異様であり、誰かに目撃されるはずだ。


それなのに、目撃情報は全くない。


公道を一切通らず、ひたすら獣道を進んでいけばあるいはと思うが、果たして生身の人間にそんなことができるのだろうか。


もっと言えば、彼らは一度、四国から九州へと海を渡っている。

誰にも見つからずに、人間と虎が海を渡るなど、できるものなのか。


こんなことができるのは、もはやアニメや漫画に出てくるような異世界人しかいない。




千尋は、自分の考察力ではそれらしい回答を導き出せないことになんとなくモヤモヤして、秋元に話を振ってみた。


 秋元は、そこまで深く考えていなかったようで、「こいつ凄いっすね」とか「超人っすね」といった感嘆の言葉しか出てこなかった。


ただ、秋元の言葉が犯人を褒めているような感じがして気に掛かった千尋は、

「犯人のこと褒めてる?」と聞いてみた。


「別に行為を褒めてるわけじゃないですよ。やってることは完全な悪行ですし。でも、こいつがやってることって常人離れしてるんですよ。誰にも見つからずに、虎を脱走させて、さらに引き連れて移動して。法とか倫理を一旦棚上げすると、単純に凄いやつなんですよね」


そう、確かにそうなのだ。

常識では考えられないことを、犯人はやってのけている。


でも、だからこそ思うのだ。


そこまでの能力を、才能を持ちながら、なぜそれを善行に使えないのか、と。


こういった人間が、悪に手を染めることなく、世のため人のために行動すれば、世界はきっと何倍、何十倍も良くなるというのに。


力のない自分でも分かることが、なぜ彼らには分からないのか。


千尋はそれが歯痒くて仕方なかった。






それからさらに二週間程が経過したある日、ついに事件が起きた。


しかしその場所は、盤石な体制を敷いていた九州ではなく、中国地方の島根県だった。


政府の追加策によって、警備を三人体制に強化してはいたようだが、十数頭の虎相手では多勢に無勢だろう。あっけなく突破され、四頭が脱走した。


手口はやはりこれまでと同様で、犯人確保の糸口となるような痕跡は何一つ残っていない。


ただ、今回は若干の隙があったようで、警察官の一人が虎に向けて何発か発砲したらしい。

しかし、そのどれもが命中することはなかったとのことだった。


千尋はそれを聞いて、日本は治安が良いので銃を発砲する機会が滅多になく、単に平和ボケで手元が狂っただけなのだろうと思った。


ただ、その警察官は『同僚が襲われているところを助けようと、至近距離から発砲したので、当たらないはずがない。それなのに、当の虎は被弾した反応も示さなければ、流血した様子もなかった』と供述しているらしく、千尋は頭を抱えた。


もう何が何だかさっぱり分からない。


銃が当たらないなんてことがありえるのか? 


いや、ありえないだろう。そんなの、それこそ二次元の世界の話じゃないか。

でもここは、まぎれもなく現実世界だ。


一体何が起きているというのか――。

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