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第二位、人間  作者: 青野 乃蒼
国家転覆

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15/37

止まらない脱走事件

天は我々を見放した。


そう思わずにはいられないほど、事態は加速度的に進展していった。


三例目の宮崎での脱走事件から僅か三日。今度は鹿児島県で、虎が三頭脱走した。

ただ、この鹿児島の一件は、これまでの例とは様相が異なっていた。


なんとケガ人が出たのだ。


それも全治三ヶ月の大ケガで、ケガをしたのは夜間警備をしていた警察官だった。

さらにその警察官は「虎に闇討ちされた」と供述しているのだ。



本人曰く、深夜三時頃、獣舎の前に立って門番をしていると、突然闇の中から虎が現れて、右腕に噛みつかれた。


逃れるため、激痛に悶えながら左手で虎を殴打していると、さらに二頭の虎が助太刀のごとく現れ、左腕と左足に噛みつかれた。


その後は、痛みと恐怖に耐えられなくなって気絶してしまい、朝になって次の交代要員に発見された。


ということらしい。



千尋はこれを聞いたとき、耳を疑った。

と言うのも、警察官の手足はちゃんと残っているらしいのだ。


本当に信じられない。


もし、警察官の供述通り虎に襲われたのだとしたら、普通は手足どころか命も残らない。

それが、命も手足も残っているなんて――。


不幸中の幸いなんてレベルじゃない。


まさに、奇跡だ。


間違いなく一生分の運を使い果たしただろう。




警察官の容体も驚くべきなのだが、本当に驚くべきはここからだ。


警察官は虎に襲われたのだ。当然、()()()()()()()()()()()

つまり、()()()()()()()()()()()()()()()


それすなわち、犯人は自らが飼育する虎、もしくは各地で脱走させた虎を手懐け、思うがままに操っているということになりはしないか。


まるでテイマーのように。


闇の中から急襲し、狩りのごとく集団で計画的にターゲットをハント。

相手に致命傷を与えない絶妙な力加減。

虎だけでは絶対に成しえない、檻の中にいる虎の脱走。


千尋自身、半信半疑ではある。


テイマーなどというものは、二次元の世界にしか存在しない偶像で、現実世界にいるはずがない、と。


ただ、警察官の供述が真実なのだとすれば、最も合理的なのがテイマーであることもまた、揺るぎようのない事実なのだ。




そして、あろうことかこの翌日に、今度は熊本県で二頭の虎が脱走した。


手口は鹿児島県と同様、深夜に虎に襲われて――、というものだった。

ただ、目撃された虎の頭数が三頭から片手で数えられない程に増えており、千尋の予想をさらに裏付けた。


僅か一週間の間に九州三県という驚異的な速度で犯行され、政府も手をこまぬいてはいない。

これ以上九州を侵略させまいと、九州の各動物園に自衛隊の分隊を配置し、警備体制を強化した。


また、九州地方以外の動物園についても、今後何らかの追加策を講じることを公表した。


今や日本に留まらず、世界も注目するこの事件。

日本国民全員が行く末を案じている。


千尋は、政府の追加策によって犯人の奇行が止まることを祈りつつも、心の隅の方では、止まらないだろうと思っていた。


なにせ犯人は、目的も動機もまるで分からない奇行をやってのけるような人間なのだ。


犯行を難しくさせることで、逆に犯人の歪みに歪んだ好奇心を刺激し、行動をエスカレートさせる可能性もある。


自衛隊の方々には、日頃の訓練の成果を遺憾なく発揮していただきたい。






◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



作戦が見事にハマった男は、福岡県のとある海岸でほくそ笑んでいた。


深夜ということもあり、人の気配は全くない。

寄せては返す波の音だけが、静かに響いている。



――こんなにも容易く事を運べるとは。なんと無能で愚鈍な人間共。ただ、これ以上九州に留まるのは効率が悪い。だが、勘違いはしないでいただきたい。これは奴らに屈したわけでは到底ない。私の野望を実現するために、最も確実で効率的な選択をしたまで。奴らがどれだけ束になろうと、我々に敵うはずなどないのだ。



数多の屈強な同胞たちを引き連れて、男は歩き出す。


今や大所帯となった集団は、瞬く間に闇の中へ消えていった。

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