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第二位、人間  作者: 青野 乃蒼
国家転覆

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第三の脱走事件

政府・自治体が早めに手を打った甲斐もあってか、緊急事態宣言が発出されてから一ヶ月が経った今に至るまで、新たな脱走事件は発生していない。


ただ、脱走した虎たちは、警察と自衛隊が捜索を続けているが一向に見つからず、住民たちは不安な日々を過ごしている。


住民からは僅かながら、捜索に対する不満や批判の声が上がっているが、それはお門違いだと千尋は思っている。


と言うのも、四国の国土面積の七割は森林で、その領域を捜すとなれば、自動車やスマホといった文明の利器はほぼ使えない。


つまり、純粋に身体能力での勝負となるわけだが、人間と虎には歴然の差があり、ただでさえ、人間側に大きなハンデキャップがあるうえに、虎に野生の本能を発揮されようものなら、この広大な四国の森林の中から虎を見つけるなど、困難極まりない。


関係者が言っても焼け石に水――どころか火に油を注ぐことになるだろうが、警察や自衛隊は慰労されこそすれ批判される筋合いはない。


とは言え、千尋の心の中では葛藤している。

警察に対してではない。リヒトたちに対してだ。


なぜリヒトたちは脱走したのか。

今どこで何をしているのか。どうして帰ってきてくれないのか。

自分に対して不満があったのか。自分の世話に問題があったのか――。


家族同然のリヒトたちを失ったショックは大きく、答えの出ない問いと、負の感情に苛まれ、眠れない夜がしばしばある。


あまり考えないようにはしているが、仮にリヒトたちが帰ってきてくれたとして、「良かったね」の一言で一件落着、というわけにはいかないだろう。おそらく何らかの処分が下される。


そこに殺処分が含まれていることも理解している。


それでも、リヒトたちには帰ってきてほしい。処分なら自分も受ける覚悟だ。だから――。


一人にしないでくれ。一人は結構辛いんだ。



千尋は布団の中、苦しそうに眉間に皺を寄せる。

その下にある閉じられた瞳から、淡く光る雫が、ゆっくりと頬を伝っていった。






早朝、覚醒した千尋は目に違和感を感じて、目をこする。

枕元にあるスマホを手に取って時刻を確認すると、普段よりも一時間早い起床だった。


もうひと眠りしようと目を閉じたが、リヒトたちのことが頭の中をぐるぐると駆け回って眠れなかった。千尋は二度寝を諦めて、眠気覚ましにテレビを見ることにした。


しばらくボーっと見るとはなしにニュースを眺めていると、速報が入ってきた。


『たった今入ってきたニュースです。宮崎県宮崎市にあるベンヌ動物園で、飼育していた虎四頭が脱走しているとのことです。繰り返します――』


ふわふわとしていた脳が、一気に覚醒する。


ついに、四国外でも起きてしまった。おそらくこれも同一犯の仕業だろう。

四国からわざわざ海を渡って犯行に及ぶあたり、犯人は相当に執念深いようだ。


『――早朝、飼育員が獣舎に向かったところ、虎は既に脱走していたということですが、詳しい情報が入り次第お伝えいたします。なお、これで愛媛県、高知県に続いて三例目ということになりますが、関連性についても今後調査していくとのことです』


犯行の時間帯が前の二例と異なる点は少し気になるが、同一犯で間違いないだろう。

動物園に侵入して虎だけを脱走させるような奇人が、複数いてはたまらない。




三例目が発生したことで危機感を覚えたのか、政府は全国に緊急事態宣言を発出した。

ただし、四国、九州地方を除いては、動物園に対する義務のみ課されることになった。


事態が四国のみに留まらず、挙句、全国に緊急事態宣言が発出されたことで、国民に動揺と不安が広がり始めた。


SNSでは『四国封鎖』『動物園廃止』などの、極端で扇動的なコメントが拡散されるようになっている。最近はこういったSNSのコメントが発端となって、トラブルや事件が発生しているので、今のこの状況は危険な香りがする。


沈静化を図るには、犯人と虎を見つけるのが一番だが、そのどれも千尋には成しえない。


千尋はただ祈るしかなかった。

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