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淡きレテの果て〜世界を駆け巡る忘却少女の冒険譚〜  作者: 雪道 蒼細
5章 全種族大戦

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1話 はぁ?はぁ‥?


 とある東の地の村にて戦闘が繰り広げられていた。

 

 「メルロ!奥へ行って先回りしてくれ!」


 アザーは叫び、地面を蹴る。

 そして宙で回転をして暴れる男に向かってサーベルを振り下ろす。


 カキンと剣同士の音が鳴る。

 

 男はアザーの剣を受け止め蹴りを入れた。

 アザーはそれを避け、サーベルを男の腹へと突き刺す。

 だがそれと同時に男がアザーの腕を突かみ投げ飛ばす。


 「ッチ」


 アザーは舌打ちをするが、男の真後ろで杖を振り上げるメルロを見て口角を上げる。


 『…!食べる魔法(セイヴァー)!!!』

 「‥‥ガッ」

 「よっしサンキューメルロ!」


 メルロの魔法が男の行く手を阻む。

 アザーはメルロの魔法に続き男に斬撃を入れる。


 すると男はうめき声をあげその場に倒れた。


 

 「ふーっ。終わったな」


 アザーはサーベルをしまい、そう言った。

 男の傍により男の頬を叩くが反応はない。完全にのびている。


 『そうですね。…ですが…最近以来多いですね』


 少し離れた所にいたメルロがラチャを乗せてやって来た。

 

 アザーはメルロの言葉に「そうだな」と言い頷く。

 

 ピスの誘拐事件から半年近くが経った。 


 その間に謹慎が解けたアザーは今まで以上に依頼へ誠意をもって取り組んでいたが、さすがに多い。多すぎる。

 この半年の間にフィディス関連の依頼は八〇件近く受けてきた。

 通常なら一か月の依頼件数が多くても五・六件。それが半年なので三〇件ほどが普通なのだが…。

 今年はその二倍以上。おかげでこっちは疲れがたまっている。

 場数を踏めるので経験としては良いことなのだろがこちとら生きている生物だ。休息が無ければやる気も消えてしまう。


 「はぁー」


 アザーはため息をつきながらフィディスを吐き出させる作業を行う。

 

 『そんなため息つくなって。でも…もう少し依頼が減ってもいいよなぁ』

 「はは。ほんとそれ」


 アザーは同意し自身の手を見る。

 そして開いたり握ったりを繰り返した。

 最近こっちの自分でいることが少なくなっているし日中ボーっとすることが増えた。

 人格は変わるとすぐに戻るのだが、そろそろヤバいかもしれない。

 

 『アザーさん…?』


 心配そうにメルロがアザーの顔をうかがう。

 

 「あー。いや…あ。そう言えばメルロ知ってるか?呪いの話…研究施設(ケルディット)の奴らからの情報なんだけどよ…呪いがもう少しで解呪されるかもしれねぇんだってよ」


 話を変えようとアザーは話題を出す。

 それにこの情報に関しては後でメルロにも伝えようと思っていた。

 「すっげぇことだよなー」とアザーは言いメルロを見る。 


 『え…』


 メルロは目を丸くし呆然とアザーを見ていた。


 『それ…本当なんですか…?』

 

 メルロは近づきアザーを強く揺さぶる。

 アザーは「ちょい待て」と言い手で制止をする。


 「本当だって。だから俺のことそんな心配しなくてもいいぜ?呪いが解ける方がもしかしたら早いかもしれねぇしな」

 


 そう言ってアザーは歯を見せて笑った。

 生まれた時からずっとある呪い。それからようやく解放される。


 『‥‥そうなんですね…呪いが…』


 メルロは口角を上げ、少しだけ笑っている。嬉しそうだ。

 だがその表情も一瞬で急に真顔になる。


 「ど、どうした?」


 急な表情変化にアザーは驚き声を掛ける。

 メルロは無言のまま先程フィディスを取り出した男を見た。


 『いえ…ただ呪いも嬉しいんですけど。フィディスによる被害が消えてくれなきゃ素直に喜べないなと…』

 「…それはそう」


 アザーは遠い目をしてそう言った。

 呪いが解けたところでフィディスによる被害が無くならなければ落ち着いて喜べない。

 


 フィディスどっから湧いてくんだよ。

 と内心で毒づきながら手のひらにあるフィディスを見た。


 * * * *


 「ケホッゲホッ!!…煙すげぇな…リン。ここに何があるんですか?」


 クレマチスは咳き込みながらダージリンに問う。

 ここは東と南の地の真ん中にある土地だ。

 魔物による煙が視界を多い、方角が分からなくなるため人はあまり寄り付かない場所でもある。


 「そうね…あ」


 ダージリンは足元に何かが辺りしゃがむ。

 そして手探りで先程足に当たったものを確認する。

 

 「…これ。…」

 「ん…?あ…これ…」


 ダージリンが目を細め手に取ったものをくまなく見る。

 ダージリンが手に取ったのはフィディスだ。それも施したはずの封印が解かれているフィディス。


 「マチス。しっかり地面に埋めたり海に投げ捨てたりしたのよね?」

 「えぇ。というか最近のはリンがどっかに隠した奴も多いじゃないですか」

 「そうよね…そうなの。…魔物があの封印を解けるとも考えられないわ。…ならやっぱりいるのね。封印を解いて各地にフィディスを配っているおまぬけさんが」


 ダージリンはそう言って手に取ったフィディスに封印を施す。


 「…でも誰がこんなことを…」


 クレマチスを腕を組み考え始める。

 フィディスは人間以外の種族にある呪いが漏れたものが少しずつ集まりフィディスという石になる。

 古代はどうか知らないが、最近のフィディスはこうやって作られている。


 それを陽虎は封印して回っているのだ。

 フィディスは人の生活を脅かす危険なものだから。

 だがどんなに人に訴えても聞く耳を持ってもらえなかった。

 だから多少強引な手だろうが、フィディスを管理する施設からフィディスを盗み出しダージリンやクレマチスが封印するという作業となった。


 そして封印したフィディスは人が間違って触らないように人が寄り付かない所へ埋めたり沈めたりしていたのだが。


 「はぁー最近フィディスによる被害が増えてるなーて思ったんですけどその人らが原因だったってこどっすかねー」


 はぁーと深いため息をクレマチスはつく。

 気づかなかった自分たちも自分たちだがさすがにやめてくれとおもってしまう。

 

 (今までの俺達の努力は何だったんだよ…)


 フィディスを盗んでいるから夜鳩に目をつけられて逃亡生活をしなければならない羽目になった。

 誰にもほ褒められたりせず泥棒扱いをされようと世界平和のために頑張って来たというのに。


 (ってかフィディスをバラまいている奴ら誰なんだよ!表沙汰になっていればこちらも気づいたかもしれないのに)

 

 「そうね。だけど…追おうにも追えないわね…」

 「あーそうですね…変に調べたら鉢合わせそうですよね」


 言わずもがな夜鳩とである。

 封印のせいでかなり力を消耗している。

 戦いになったら負けるかもしれない。


 「…でも…今は昔と違う。もう一度話すべきなのかもね」

 「え」

  

 どこと?とは聞かない。大方予想がついている。


 「…私は世界にね…楽しそうに笑う子供たちが増えて欲しいと思って今の活動をしているの。フィディスなんかなくても…みんなが笑える世界。…だから…そんな世界になるなら私は殺されたっていいわ。今までの裁きも受ける。だから今は夜鳩と協力すべきなの。これから来る敵に…きっと夜鳩と私たちの敵は同じよ。だって活動自体少し内容が違うだけで思いは一緒なのだから」

 「リン…」

 

 「でも」とダージリンは言う。そして人差し指を俺に向けた。


 「クレマチスがやりたくないならそれでいい。クレマチス…どっち?」


 いつものようにマチスと呼ばない。

 真剣な話なのだと分かる。


 だがここで嫌というクレマチスではない。

 そんな生半可な覚悟でこの活動をしていない。


 「…俺はリンについて行きますよ。俺は今もずっとリンの犬です。どうぞご命令を」

 「…もう。いつもはそんなこと言わないくせに」


 そう言うがダージリンは頬を少し膨らませていた。

 表情は変わらないが、頬を膨らませているなら恐らく…恐らく拗ねているのか照れているだろう。

 本当にどっちか分からないが。


 「じゃあ。行きますか。夜鳩の本拠地へ」

 

 クレマチスはダージリンへ手を差し出す。

 だがダージリンは握らなかった。

 不思議に思いクレマチスは首を傾げ「どうしました?」と聞く。

 

 「いえ。…」


 ダージリンは無表情でクレマチスの首にさわる。

 そして何か透明な輪をクレマチスの首につけた。


 「え?」

 「…あなたは犬なんでしょ?それで私は主人。犬にはしっかり首輪をしなきゃ変よ」


 そう言ってダージリンは指先で宙に円を描く。


 「じゃ。行きましょうか」


 何事も無かったかのように精霊術を発動させダージリンをクレマチスは呆然として見守っていた。


 ;

 :


 「…では後ほど」

 「あぁ」


 夜鳩の職員はそう言って部屋から出て行く。

 夜鳩のボスと呼ばれる男は出て行く職員を見送りつつ白色のマグカップに入った珈琲をのむ。

 そしてホッと一息をつこう。そう思った時だ。


 「動かないで」

 「--!」

 

 凛とした声が部屋に響く。首には剣があてられていた。

 

 「…私は陽虎のダージリン。あなたが夜鳩のボスでいいのよね?」

 「…そうだが…」


 ボスは足元を少しずつ動かす。

 足元に緊急用のベルが鳴るボタンがあるのだ。

 それを押せればと思うが見当たらない。


 「…率直に言うわ。私はあたなと取引がしたい。あなたもこの世界のおかしな空気は分かるわよね?きっと近いうちに争いが起きるわ。そのためにも私たちは協力するべきだと思うの」

 「そうか…だがこれは取引ではなく脅しだと思うんだが…」


 そう問うとダージリンからの返答はなかった。

 ゆっくりと後ろを見れば少しも動かない顔立ちの整った紫髪の女がそこにはいた。

 

 「そうね…確かにそうなのかしら?ごめんなさいね。ずっとあなた達に追いかけられてたものだからどう対応したらいいか分からなくて」

 「そ、そうか…だが追いかけてたのはあなた方がフィディスそ盗み世界にバラまいているからでしょう?」

 

 まるでこちらが悪いといわんばかりの言い方をするので少し反論すると、無表情のままダージリンは首を傾げる。

 何か可笑しな発言があっただろうか。


 「ねぇ…そのフィディスを世界にバラまくって何かしら?」

 「はぁ?」

 「はぁ…?」


 ボスもよく分からず首を傾げる。

 そのまま二人は十分間ほど首を傾げていたそうな。

 

 

 

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