プロローグ
人々の悲鳴が聞こえる。
泣いている声。助けてと助けを求める声。
怒鳴る声。
そして人は皆同じ方向へ走って行っていた。
だが少女は一人、人の流れに逆らうように歩いていた。
「…こんな戦争…意味ないのに」
靴も履かずに歩きそう呟く。
足の裏は先程尖った石を踏んだせいで血が出ていた。
痛いがそれもどうでもいい。
母は少女を捨て、父とは別の男の元へ行き、父親は戦場へ行った。
そのため祖母に預けられ育ったが、その祖母も先程の爆撃で死んでしまった。
だからもう生きる意味はないのだ。生きる意味は。
そう思い少女は焼ける家へ手を伸ばす。
炎が燃え上がり今にも倒壊しそうだ。
「…これで死ねる」
少しずつ家に近づく。
だが家へ近づく前に近くに爆弾が落ちた。
そして瓦礫の破片が飛び散る。
ボーっとその様子を見ていた少女は飛んできた破片を避けようともしなかった。
ただこれで祖母と同じところへ行ける。そう思ったのに
* * * *
「…ん…」
目を開けると目の前にはクレマチスの顔があった。
スヤスヤと寝息を立てている。
「…」
クレマチスを起こさないようにベッドから降りようとするがそれは不可能だった。
何故ならクレマチスがダージリンの足を掴んでいたからだ。
「…なんで私の太ももを掴むのかしら…。お腹なら分かるのだけれど」
とりあえず動けないので、クレマチスの手をダージリンの太ももから引きはがそうとするが、上手くいかない。
力が強すぎて離れないのだ。
いっそ起きているのでは?と思うが起きているときにダージリンの太ももを掴むことができるほどクレマチスに度胸はない。
クレマチスが起きるまで暇なのでダージリンはクレマチスの髪をクルクルと巻いて遊んだり、ツンツンとつついたりを繰り返す。
(…)
今日は静かだ。
いつもならラチアの元気で明るい声がアジト内に広がるが今日はそれがない。
それもそうだ。自分がアジトから元いた城へ戻したのだから。
だがこれから起こることにラチアを巻き込むことはできないし、守れる保証が無い。
ラチアのことはラチアの母に頼まれたのだ。
だから死なすわけにはいかない。
「…だけど。…もうあれからかなり経つのね」
ラチアの母のことは幼いころから知っていた。
そもそもダージリンはラチアの母。その父。と代々ラチアの母家系の者とは顔見知りなのだ。
ダージリンが幼い時。
死のうとしていたダージリンを助けて育ててくれたのがラチアの祖先だ。
そしてそれからずっとラチアの直系の人の傍にいて見守ってきた。
だがずっとべったりというわけではない。くっつきすぎず離れすぎない。そんな関係を繰り返していた。
そんな中でもラチアの祖先。ダージリンの育て親以外で一番仲が良かったのはラチアの母だろう。
彼女と過ごした十五年間はとても素敵なものだった。
だからこそその子供であるラチアのことは守りたいのだ。
ラチアのことは自分の子供のように思っている。
思っているからこそ巻き込めない。
ダージリンはクレマチスの髪を撫でながら窓の外を見る。
「世界を揺るがす何かが…もうすぐ起きる」
ダージリンはそう呟いた。
* * * *
ー研究施設ー
「そう言えば知ってる?もうすぐ呪いを解く方法が分かるかもって言われてるの」
フェナが椅子に座り、椅子をクルクルと回転させながらそう言った。
「それ本当か!?」
「えぇ。この前他の研究班と話し合いした時に「これならもしかしたら」って感じで」
カルセドが急に立ち上がりそう問うので、フェナは頷きそう告げる。
「でもそっかー。ようやく分かるのか…俺は人間だから呪いとかそう言うの分かんねぇけど、呪いって大変だよな…」
「そうね大変。これを機にフィディスの研究ももっと進めばいいのにね」
そうフェナが言うとカルセドの隣に座っていたカルメが静かにうなずく。
「はぁ…ですが呪いが溶けたとして…また別の問題が起こりそうですけどね」
気だるげにそう言うのはセレストだ。
ソファーで横たわり欠伸をしている。
「それってどんな問題?」
その様子にフェナは眉を顰めつつ問う。
するとセレストからではなく別の人物から答えは帰ってきた。
「世界の均衡が崩れる…そう言いたいのね?今は他種族が力を持っていても呪いのせいで脅威が薄れていたからいいものの、それが消えれば…」
「あー。戦いでも起こるのかしら?…はぁー。少し前にも全種族大戦があったってのに…これ以上戦争は勘弁してよね」
「…そうだなー。だが最近きな臭いよな。なんか起こりそうっていうか…」
カルセドがそう言ってテーブルに置いてあったお菓子をつまむ。
「…そうですね。前の全種族大戦が起こる前と同じような…なにか…」
* * * *
『あ。ツァイトさん。今からピスさんの所に行くんですが一緒にどうですか?』
「わしはいかん。ピスにぶりはしないようにと伝えてくれ」
そう言うと「はーい」と元気のいい返事をしてメルロとラチャはどこかへ行った。
ツァイトは一人になった部屋でボーっと部屋に飾られている写真を見る。
そこには男女五人組の子供の写真があった。
その中にはツァイトもいる。五人で横並びになっている中の真ん中だ。
服が泥だらけ。だが楽しそうに笑っている顔。
「懐かしいのぉ」
あれからもう六○年近い歳月が経った。
もうこの写真に写る友人はいない。
魔法使い・天種・精霊種・竜種そして人間の自分。
他種族同士がいがみ合ってた中での友人。
この中の一人。天種の友達に関しては自分が殺した。
他も自分の手では殺めていないが、魔法使いと竜種の友人に関しては死に際を見た。
精霊種の友人は死んだという話を人づてに聞いた。
結果生き残ったのは自分一人だった。
この世界から戦争を無くしたい。そう思ってはいるが無くらない。
これから起ころうとしていることもそうだ。
今後一切このようなことは起こらないようにしよう。そういつかに誓っても、起きてしまう。
生物が生きている限りそうなのだ。
どんなに願っても。
過ちは起きるのだ。
二度と起きないなど。この世にはない。




