表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
頂を知りたくなければ、戦場で空を見上げるな

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
213/215

フラスク市街戦(3)

 息を吐き出す度、自分の体が地面へ沈んでいく感覚にユーゴの意識は囚われていた。

 

 身に着ける装備は四肢を縛るロープのようで、吐息を閉じ込めるヘルムは首から上だけを水の中へ入れているようだった。

 冬の夜の寒さに凍える彼の体には、この自分を閉じ込める空間から逃げ出す力は残っていないみたいだ。


「ーゴ……、ユーゴ!」

 自分の名前がどこかで叫ばれている。

 それは分かったが、頭を上げる気力が湧かなかった。

 もしも、これほどの近くで叫んでいると気づけば、彼は顔を上げたはずだ。

 彼のヘルムに鈍い衝撃が加わってから、ユーゴはそう思った。

「痛!……なんだケネスか。叩くなよ、聞こえてる」

「じゃあ立て、隊長達が戻ってきた」

 

 地面に座り込むユーゴを見下ろすケネスは顎で通りの向こうを示した。

 フラスクを囲む城壁の反対、街の中心の方向である。

 

 ケネスの行ったとおり、都市長の邸宅(現在はフラスク周辺での作戦本部に使用している)から隊長達がこちらに近づいていた。

 この街道で待機していた他の兵士も彼らの戻りに気付いたようで、重い体を持ち上げて立ち上がり始めている。

 ユーゴは座ったまま、他の兵士の足の隙間から隊長達を観察した。

 と言うより、彼らの中にある人物を探していた。

 だが、こちらに近づくのはたった4人。名前と顔も知っている隊長達だけであった。


 そうして仕方なく立ち上がろうとするユーゴの目の前にケネスの手が差し出される。

 ユーゴは躊躇することなくその手を掴み、わざとらしく力を込めて引っ張りながら立ち上がった。

 それに対してケネスが何かを言うかと思って彼の顔をチラリと見ると、ケネスはただユーゴをじっと見ていた。 

「なんだよ?」

「別に。ただそう言えば……、さっき空で星が光ったなと思って」

「…………は?」

 ユーゴは夜空に何かがあるのかと思って見上げたが、そこにあるのはやはりただの夜空だった。

「光は王都に向かってた。あまりよく知らないが、もしかしたらあれはあのアイテムの効果だったかも……ユーゴの、ほら」

 

 ケネスがそこまで、ユーゴは言ってようやく理解した。

 彼はユーゴが隊長の中に父であるニコラの姿を探していたことに気付いたのだろう。

 そして、ニコラがいないことにほんの少しの失望があったことも。


「そんなの…………」

 続ける言葉が見つからず、ユーゴは話題を変えた。

 ちょうど、ケネスの後ろでずっとこちらを見てくる友もいた。

「…………で、さっきから何してるんだ。シャモネ」

 汗で濡れた髪を額に張り付けたままニコリと笑うシャモネが自分のヘルムを突き出した。

「見てください!私の家の家紋が完成しました!」

 シャモネのヘルムの後頭部には、確かに印が刻まれていた。

 

 コートデナール草原での戦いの前に刻んでいた家紋だ。

 ユーゴは正確にシャモネの家紋を知っている訳ではないが、傷や汚れとは違うそれは確かに目立つ目印になる。


「続きを描いてたのか。どうりでよく休めたわけだ」

「どういう意味ですか!?」

「……思ったんだが、こう人数が少なくなったらシャモネは後方からの支援だろう?それで後ろに家紋を描かれてもな……、必要なのは俺たちの方じゃないか?」

「じゃ私がユーゴさんの分も描きますよ。それ貸してください」

「いやだ」「お前の家に家紋なんてあるのか?」「ないだろ」

「ありますよ。あなたのお父様が三極になった日に貴族位をもらったはずです。カル王国の旗と剣を模した紋があると、あなたのお母さまから教わりました」

 

 ユーゴ、ケネス、シャモネ。

 それに、魔術師として隊に加わっているゾラやクロード。


 静寂の星空の下で、彼らは時折笑い声さえ聞こえる会話を続けた。

 その瞳に何百の兵士の死ぬ光景を残したまま。肉がつぶれ、鋼鉄はぶつかり、剣の折れる音がいまだ耳に響いたまま。

 断末魔の絶えないこの戦場から逃げられぬまま、平静を装うように話を続けた。

 あるいは、そうしなければ平静でいられなかったのかもしれない。

 

 何にせよ、聞き覚えのある号令が彼らの会話を終わらせた。

 ユーゴ達の隊長であるダンケンが残った兵士を集合させたのだ。

「よく聞け!」

 ダンケンは精一杯声を張り上げたが、次の一声では少し声を落とした。

 大声を張らずとも全員に聞こえると気付いたのだ。

 残った兵士はそれほど少なかった。

「……ここからはお前たちは自分の判断で行動しろ。市民の避難所に行ってもいい。残ってもいい。お前たちに任せる」

 ダンケンは数秒待ち、また口を開いた。

「残る判断はこれを聞いてからでもいい。今の状況を教える。…………この街はジャイアント族に包囲された。包囲はこの瞬間にも狭まっている。このフラスクは元は戦のための砦だ。街の外に繋がる地下道がある。市民は避難所からそこへ潜り、戦いを避けられる。我々は…………いや、以上だ」

 ダンケンが話を終える。

 するとすぐにどよめきが広がった。

「え?どういう意味ですか?」「俺たちは何を?」

 ダンケンの近くにいた兵士がそう問いかけるが、彼は全てを無視して通りすぎていった。

 向っているのは少し離れたユーゴ達のところだ。

 

 混乱しダンケンに無視された兵士。彼らはダンケンや他の隊長達の視線がなくなると夜の闇に消えていった。

 ダンケンの話を聞き終えても、悩むことなく彼の後を追う兵士。彼らはそこへ残った。


 そしてユーゴ達は、近づいてきたダンケンの前に立った。

「地下道の数はいくつですか?」

「知らん」

「……完全に街の外へ出られるまでの時間は?」

「さあ」

「…………時間稼ぎが必要ですか?」

 

 そう問うユーゴの顔をダンケンは悲しそうに見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ