剣聖(3)
つい漏れ出てしまう笑みを隠したのだろうが、震える肩は隠せなかった。
怒羅権はそんなフィセラの頭に手を置いて、優しく言った。
「たぶんその人たちは、それを見て笑っているあなたに怒っているのよ」
「え~、さすがにその時は笑ってませんよ!ね?………………、なんでみんな無視するの?」
目を逸らすメンバーを見てフィセラは意地悪な顔をしはじめる。
「そういうことすると、さっきギルドポストに届いていたコレを見せてあげませんよ。あ~あ、すごいのになぁ」
「プレセパ教団からの拠点爆破予告とかですか?」
ファンタジー世界の雰囲気を壊すようなサラーリーマン風のスーツを着た眼鏡の男が冗談を口にする。
「それは時々本当に届くから別にすごくなぁい!」
裏声のような高い声で茶化したのは、目立たない修道服姿で両目を閉じたうえにタトゥーを刻んだ女プレイヤーだ。長いスカートのまま足を机に乗せる態度は見た目の清楚さとはギャップがあった。
<サラリーマンは戦士>と<ジュン・同担拒否>である。
「……そうですね。私はてっきりジュンさんがまた!プレセパ教団にいたずらメールを送ったのかと思いましたよ」
「そんなのは記憶になぁい」
「そもそも、ジュンさんが挑発するせいであのギルドがこちらを敵視するんですよ!手紙の差出人の名前を私の名前にしたこと忘れてませんからね!」
ジュンが足をバタつかせ、げらげらと笑う。
その様子を一瞥もしないでいたフィセラは怒羅権が自分のコンソール画面を覗いていることに気付いた。
「で、結局何がきたの?」
本当に隠すつもりの無いフィセラは、すぐに答え喋り始めた。
「運営からです。ワールドクエストの特別報酬らしいですよ。一応、成績一位用のアイテムだとか」
「「え!?」」
こっそりとフィセラの話に聞き耳を立てていたメンバー全員が驚きのあまり声をだしてしまう。
それも当然だ。
ワールドクエストの合計参加者は1千万を超える。その中で最優秀のプレイヤーに送られる報酬は破格である
第4回のワールドクエストの報酬がゲーム内オークションに出品された時はゲームマネーで30億の値が付いたのだ。
そのアイテムがギルドポストに入っていたとなれば、驚くのも無理はない。
「見せて!」
「はい」と言って、フィセラはメールに添付されていたアイテムを取り出し、雑に机へ置いた。
そして、メンバーが見やすいように一歩引きながらこう言った。
「私の趣味じゃないわ」
なんの変哲もないロングソードだった。
多少、鞘や持ち手の装飾はあるが豪華という程でもない。
見た目だけで言えば、50レベル帯のアイテムに似たものがあった気がする、と言うレベルだ。
「おお。いいじゃん。こういうのは効果がすごいだよな」
誰かがそう言い手をアイテムにかざした、するとアイテムの説明画面が空中に広がった。
声に出すつもりは無かったが、説明を読む声がつい漏れてしまう。
「……<世界戦争>」「110レベル相当の使役モンスターの召喚?召喚獣の最高レベル100だろう?」「この効果の書き方だとなんでもできるね。100レベルを三体召喚か、50レベルを百体……、1レベルなら1万?」「計算できないの?その数十倍よ」
その時、メンバーはそれぞれ顔を見合わせた。
このアイテムをどうするのか、と言う顔だ。
すでにそれぞれのジョブビルドで120レベルに到達しているエルドラドのギルドメンバーには、少々使いづらいアイテムだった。
それならまたあの玉座の部屋に飾るかと言われると、それも惜しい気がする。
そんな話し合いをこれから始めようとする瞬間、フィセラが最初に口を開いた。
「NPCに持たせれば良くない?」
その言葉から、彼女は生まれた。
この日、まだ作られていなかった唯一のステージ管理者。
たった1本の剣型のアイテムを使うことだけを目的とした120レベル。
農場管理が出来るよう、生産系のジョブにされようとしていたエルフ。
剣術スキルツリーを極め過ぎたが故に、プレイヤーしか持ちえないはずのとある称号を与えられた剣士。
99.999パーセントのプレイヤーの上に立つ最上位プレイヤーに並び立つNPC。
その者の名は<カラ・フォレスト>。
その称号は<剣聖>。
与えられた二つ名は、剣聖・降臨剣である。




