剣聖(2)
「あ、怒羅権さん。おひさー」「どうもです」「お疲れ様です」「お疲れさま」
怒羅権に気付いたメンバーが軽い挨拶をそれぞれ返した。
彼女は片手を上げてそれに応じる。
そうして部屋をグルリと回り、フィセラの座るソファのふちに腰を下ろした。
「フィセラちゃん、本当に久しぶりみたいね。ごめんね。ワールドクエストの前半しか参加できなくてさ」
メンバーには冷たい視線を送る彼女だが、なぜかフィセラだけには異様に優しかった。
と言うより、甘かった。
「うんうん、全然オーケーですよ!」
「ありがとう。それで、ワールドクエストはどうだった?今回は帝国の大規模防衛戦だから、防衛率とかでランキングとか出るのかな?」
「まぁ、そんな感じ……だったかな」
歯切れの悪い返事のフィセラ。
怒羅権はそれを不信に思い、他のメンバーの顔を見回した。
「………………………………」
誰一人、口を開かなかった。
明らかに空気が悪かった。
「なに?またプレセパ教団の奴らにやられでもしたのか?」
怒羅権は、答えろ、と言う視線を1人のプレイヤーに注ぐ。
そのプレイヤーは<Yoshizawa>。
黒色の肌に黄金のアクセサリーを身に着けた、ギラギラの上裸の坊主だ。
「……プレイヤーズニュースを見ていないのですか?」
彼の声は見た目でイメージする声より少し高めだった。
「急な試合を組まれて忙しかったんだ。いいから、教えろよ」
「いいえ、口で教えるよりも分かりやすくまとめてありますよ」
Yoshizawaはそう言いながら、すでに開いていたのだろうプレイヤーズニュースの画面を怒羅権に見せた。
同時に彼女のコンソール画面がメールが届いたことを知らせる。
メールにあるのはYoshizawaが送ったURLだ。
彼女は躊躇うことなくそのURLをタッチして、開いた先の見慣れたニュース記事が並ぶ画面をスクロールした。
すぐにお目当てのワールドクエストと言う単語を見つけて、記事の内容を声に出して読み上げる。
「第5回目のワールドクエストで初の失敗……、は?」
彼女は途中で口をつぐみ、目で文面を追った。
内容はこうだった。
ーーーーーーーーーーーー
<ワールドクエスト・犠牲無くして>が遂に開催された。年間入国者3000万人を超える大帝国が舞台になったこのクエストでは、開始3日間の参加者が過去4度のクエストでも最高となった。
防衛戦の装いを纏う戦闘は苛烈を帯びた。
参加プレイヤーは数を増やし、レベルを上げ、多くのドロップアイテムを手に入れたが、それでも尚、異常な速さで加速するモンスターのレベルには追いつけなかった。
そんな時にもたらされたのがある情報だった。
歴史、秘宝、呪い、少女。
そして、5大ギルドはある決断を迫られた。
帝国のためにたった一人の少女を犠牲にするのか。
この少女の秘密を見つけるまで帝国を守ることこそがワールドクエストの全貌である。
そして、すべてが解き明かされた時、5大ギルドおよび最上位プレイヤーたちは答えを出した。
だが、全会一致の答えに否を突き返した者がいた。
<最悪>の<フィセラ>である。
彼女の無謀な行動がワールドクエストを傍観していた者を呼び寄せ、彼女に連なる狂人たちを集め、全プレイヤーを二分する戦争が巻き起こったのだ。
4千万を超えるプレイヤーが帝国領内に集い戦った。
少女を守る者達、帝国を守る者達、そして決して勢いの衰えないモンスターの大群。
まさに混戦である。
その中でも、プレセパ教団リーダーのキリスとエルドラドリーダーのフィセラの戦いは間違いなくベストバウトだ。
そして最終日、帝国の崩壊を知らせるメッセージが通知された瞬間、クエストの失敗が確定したのである。
ーーーーーーーーーーーー
怒羅権は記事の最後に書かれた関連ニュースを見つけて、数件の題名だけ流し見た。
<クエスト開催期間の収益は過去最高。一月で前半期超えか?>、<復帰、新規プレイヤーが急増。運営は新規プレイヤー向けの大型イベントを調整中>、<大帝国崩壊の影響は大きくく、帝国に拠点を置いていた万単位のプレイヤーが救済措置を求める事態に>、<最悪と呼ばれていたプレイヤーへ、ついにあの称号が!>。
私用でアンフルにログインできなかったことを悔やみながらも、理解が出来なかった。
クエスト期間の前半で去っていっただけで、この事件が起きたことが到底信じられなかったのだ。
「……なにしてんの?」
怒羅権はそれしか言えなかった。
だが反対に、今まで黙っていたメンバーが元気を取り戻したかのように喋り始めた。
「記事のライターはあっち側の人間だな。クエスト失敗?違うな、俺たちの勝利だろ!?」
「クエスト目標を無視して暴れるようなプレイヤーは記事を書かないってことじゃないですか」
「だから私たちのこと書いたニュースが無いの?つまんな~い。まぁ逆に……イカレてるってアンチコメは死ぬほどあるけどさ」
怒羅権はそこで合点がいった。
「それで拠点に籠っているのか。お前たちだけを敵視しているのなんてそんなにいないだろうに」
フィセラは怒羅権は鼻で笑った。
「分かってないですね。クエスト終了の告知があった後も、互いにデスペナルティでレベルが下がっても、ずぅ~~と戦い続けてた私たちを、私たちの恐怖を……。今でも思い出しますよ。帝国が崩壊して怒り狂ったあいつらの顔や声を……」
フィセラはそう言いながら口元を隠した。




