物語は人知れずに(4)
――と、まぁ……、やる気を出しておいてこれか。レベルにして120相当、相性の悪さは感じなかった。単純に奴の方が上だった。
ベカはすっかりと治った腕を見つめながら、ため息を吐いた。
「……情けねえな」
ベカ直属の部下である3人の魔女、アサメイたちはその戦いの話を聞くことは出来なかった。
なぜならば、彼女の言葉や態度、そして傷跡から分かることは1つだけ。
ベカの敗北と言うことだけだ。
その詳細を聞ける訳が無かった。
代わりに口にしたのは、この先の行動についてであった。
「砦に戻られますか?今は避難した方がよろしいのでは?」
アサメイがそう言うと、ベカはアサメイが気づかないほどの一瞬だけ冷たく鋭い視線を彼女に送った。
だが、次の瞬間にはベカの視線はまた遠くの丘に向けられていた。
「俺たちの役目は盾だ。それが出来なきゃ時間稼ぎの餌だぞ」
「あ、申し訳ありません」
ベカが勝てない相手にこの3人が何かを出来るとは思ってない。
それは彼女たち自身も、そしてベカも良く分かっていた。
「まあ、敵の狙いがフィセラ様なら、お前たちになんか目もくれないだろうがな」
「は、はぁ。そうですね……」
「…………で、何してる?」
「え?」と反応するアサメイ。
エナンとソルトも彼女を見たが、アサメイは変わらずそこに立っているだけだった。
そんな困惑する彼女にベカが続けた。
「餌の役目が果たせないなら別の出来ることはをやれ!芋女が砦にいない今、あのレベルの敵が他にもいたらフィセラ様が危険だ。お前たちは砦に戻ってレグルスとヘイゲンに門を閉めさせろ」
「ベカ様は?」
その答えは分かり切っていることだった。
それならば、答えることに意味は無い。
「……行け。余裕は無いぞ」
それぞれの杖にまたがり、空へ飛びあがる若い魔女たち。
最後に地面から足を離したのは、オドオドした態度のエナンだった。
「あの、カラ様は大丈夫でしょうか?あの方にも警告をするべきでは?敵が草原の方へ行ったのなら……」
「はっ!そっちの方が俺的にはうれしいな。冗談だ……、お前が気にすることじゃない。早くいけ」
そうしてようやく視界の外へ飛んでいく3人。
ベカは独り残されて、エナンの心配を鼻を笑った。
「俺にとどめを刺せねえレベルなら、あの芋女の敵じゃねえよ」
その時、景色が変わった。
緑の草原、青の空。
ただ2つの色がくっきりと世界を上下に分けていたその景色に靄がかかったのだ。
ベカはすぐに理解した。
その靄は、可視化できるほどの濃度で出現した魔力の塊。
現実をゆがめるほどの魔力の波動。
彼女だけは知っていたのだ。
それは、カラ・フォレストの能力の発動であった。
「ほーら、あの馬鹿が始めやがった」




