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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
頂を知りたくなければ、戦場で空を見上げるな

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203/203

物語は人知れずに(5)

 コートデナール草原の外れ。

 地図上では草原の外ではあるが、まだ景色は緑の丘に囲まれた大地である。

 そこに男はいた。


 英雄語り。

 英雄の唄。

 英雄の代弁者。

 男は多くの名前で呼ばれてきたが、行って来たことは1つだけだった。

 ただ、英雄の隣に立ち続けたのだ。

 ただそれだけである。

 だがいつしか、英雄の<……>、その次の言葉を必要としなくなっていたのだ。

 

 そして今日、男は英雄としての使命を胸に動いていた。

 

 男はとある魔女との戦闘から離脱して、この草原で立ち止まっていたのである。

 冷たい風は首筋を伝わる汗に触れ、上がった体温を下げた。

 だが、額から垂れる汗はすこしも収まる気が無かった。

 そして、つい今まで彼の体を支えていた両足から突然力が抜け、勢いよく膝を地面に着かせた。

「ハァハァハァハァ!」

 息は乱れ、視界が歪む。

「ハァハァ……はぁ……、はぁ」

 男はすぐに呼吸を落ち着かせ、最後は空を仰ぎながら深呼吸をした。


「ぎりぎりだった。あれ以上踏み込めば無事では済まなかった。何なんだあのエルフは?」

 男はエルフの姿を思い出した。

 記憶の中にあるエルフとはかけ離れた姿だった。

「エルフかどうかも怪しいな」


 男はそこまで口にして気づいた。

 種族など問題では無いのだ。

「魔王?……いや、あのエルフは俺をあの先へ行かせないようにしていた。魔王がそんなことをする訳が無い。なら、なんだ?」

 その答えは簡単だ。

 だがそれを口にすれば、問題がさらに多くなることが分かっていた。

 それでも、無視するには多すぎる問題だ。

「森の奥に魔王がいる?アレはただの配下?あれだけで通常の魔王と同程度の脅威だぞ。それに……、配下は何人いる?たった一人いる最強の配下を森の入口に置く?そんな訳が無い。あのレベルが他にもいたとしたら?いや、確実にいる!」


 男はアゾク大森林に向かう前にあることをしていた。

 それは、コートデナール草原での戦いの監視だ。

 カル王国とジャイアント族との戦争。

 そこで、見慣れない者を確かに目にしていた。

 

「エルフがいた!あの魔女の風貌のエルフとは全く姿が違うが、あれも魔王に繋がっているのなら、あの場所にいることの説明がつく」 

 瞬間、男の拳が草原に叩きつけられる。

「クソが!なぜもっと早く動かなかった!?中央守護の無能どもだ!」

 力の加減が出来ず地面にめり込んでしまった手を抜きながら、男はそのまま立ち上がる。

 

「魔王本人の実力が無くても、配下が魔王と同等の力をもっていれば、それが複数いるとしたら……。間違いなく等級はドミニ……!」

 

 その時、風が止んだ。

 より正確に言えば、空気の流れが止まった。

 その原因は明快だった。

 草原の丘の向こうに突如出現した霧。

 それは、あのエルフがいた方角とほぼ同じだった。


 男は目を細めた。

 彼の視力は悪くない。百メートル離れた地面にいる虫の数を正確に数えられる程の良さだ。

 だが男は視界に映ったそれを自分の勘違いであると思った。

 それがその高さにあるはずが無いからだ。

 

「あれは、人か?」

 

 霧の中に人影のようなものがあった。

 断言できない理由はただ一つ。

 影の大きさは、男が知る巨人の大きさの20倍以上だった。

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