あの日の父様のよう
夜ご飯。目の前には冷しゃぶサラダと冷や汁という、ノボリビで有名な夏バテ対策の料理が並んでいた。
「もぐ……もぐ……。
〜っ!」
リアーが冷しゃぶサラダを口に入れると、美味しそうに笑顔を浮かべる。
シアもそれを見て、サラダを咀嚼する。
「んー!美味しい〜!これ、梅のドレッシングですか?」
「ふふ、そうなの!珍しいでしょう?」
和気あいあいと話す三人を見ていると、口元が緩む。
「レテ、お前も早く食わないと全部取られるぞ?」
「……そうだね、父さん。自分も食べよう」
サラダを自分の皿に載せると、もぐもぐと食べる。
「おぉ、梅の爽やかな感じと甘酸っぱさがある……!夏に用意されたんじゃないか?ってぐらい合ってる……!」
「あら、その通りよ?」
「へ?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
その通り、とは?
不思議に思っていると、母が説明してくれた。
「実はこの梅の果実は元々固くて酸っぱいだけで、おまけに食ったら腹を壊した人がいて毒もあることが分かって……とても人が食えたもんじゃない!って言われていたの」
「え……?で、でもこの梅ドレッシングは……」
まるでその説明と真逆だ。人を癒す薬のような作用がある。
母は笑いながら説明を続ける。
「でも、ある梅好きの人がね?これ加工したら美味しくなるんじゃないか?広まるんじゃないか?って思いついたらしくて。
そこでノボリビの梅好きの人達で色々試したらしいの。
そうしたら、一人の人がラクザから仕入れた塩を使って漬けた後、紫蘇の葉をつかって風味付けをして、その後水分を抜くために天日干しにしたらしいの」
「あっ!それ、梅干しの作り方……!」
シアも反応した。そうか、なるほど。梅を梅干しにしたのにはそういう経緯があったのか。
「そう!そしてその梅干しに興味を示したイシュリア様が直々に取り寄せて実食して、効能を調べさせた結果に疲労回復効果のある成分が含まれていたらしくてね。
分かったのが偶然、その日があつーい真夏の日だったの。そこでバテている軍の人や部下に分けた結果、皆みるみる回復したの!
だからイシュリア様はその人たちに敬意を表して、ノボリビの余っていた土地と軍資金を与えて、夏バテ対策として梅を使ったものを普及させなさい、って仰られたの!」
「なるほど!この梅ドレッシングも、大昔に作られた、夏バテ対策の物なんですね!」
リアーが頷くと、母さんもウンウンと頷いた。
「その通りよ!今でこそ梅干しは手軽に食べられるけど……昔の人は、それはもう、苦労したみたいね」
「人間の食への探究心って凄いんだね……」
自分はサラダをもう一口食べながら、呆然と呟く。
そこでふと目に入ったリアーが懐かしい目をしていた。
「……リアー?」
「……まるで、私が父様に疑問をぶつけた時のようでした。
父様は私の疑問に対して、いつも分かりやすく、面白く教えてくれました。
今なら分かります。きっと、お母様の教え方がそのまま受け継がれたんだな、って」
「ふふ、そうなら嬉しいわ!」
母さんが笑いながら冷や汁を飲む。
父さんも冷や汁を飲むと、大きく頷く。
「夏バテ対策は大事だからな!しっかりしたいと!」
「はいっ!沢山食べます!」
「そうだよー!いっぱい食べてレテ君の分まで食べないと!」
「待ってくれ!!自分の分まで食べないでくれーっ!」
「ふふ、明日はもっと量を増やして作ろうかしら?」
笑ってまた食べ始めるリアーとシア。考える母さんと、食材の相談をする父さん。
そして、二人に食われる前に急いで自分の皿に取り分ける自分。
食卓には、笑いが集まっていた。
夜。三人用になった布団が敷かれた部屋でリアーが悩んでいた。
「うーん、うーん……」
「どれも良いよね、迷っちゃうの分かるなー」
リアーが寝間着をどれにするか、延々と悩んでいた。
自分とシアは既に着替えており、後はリアーだけだ。
「だってこんなに沢山あるんですよ……!迷っちゃいます!」
「……そっか。じゃあ、明日着る分も決めておこう」
「……?」
そういうと自分は立ち上がり、服の棚の方へと歩いていく。
リアーがはてなマークを浮かべながらこちらに歩いてくると、棚の一番下を開ける。
「まだ空きがあるんだよね。自分とシアの分を入れても、リアーの普段着と寝間着ぐらいなら入る」
「……!」
リアーは目を輝かせて、丁寧に一着一着畳んで入れる。
「……よし!今日はこれにします!」
「おお、花柄!そういえば昼間、シアが着たいけど手持ちがないって言ってた柄じゃないか?」
自分の言葉にリアーが頷くと、満面の笑みで返してくる。
「はい!だって、今のリアーには明日がありますから!
今日一日で全て着るなんて勿体ないです!私は、明日も、明後日も、その次の日も!大事に生きます!」
「大事だね!」
シアも同意すると、棚を閉める。
「はい、じゃあレテ君部屋出てー」
「うん」
流石に年頃の少女の着替えを覗く訳にもいかない。
部屋を出て、数秒すると声がかかる。
「いいよー!」
「分かった」
入ると、嬉しそうに花柄の寝間着を着てシアに抱きつかれているリアーがいた。
「可愛い〜!」
「えへへ!シア様も、よく似合ってます!」
「……ますます姉妹みたいだな」
自分はそう苦笑しながら言って、布団に入った。
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