誇りある娘として
沢山買った帰り道。自分の左手も右手にも沢山のお土産。
洋服や魔道具、必要な物から本当に必要かと思い返すと悩みそうなものまで買ってしまった。
「えへへ……。両手が幸せでいっぱいです!」
「良かったね!」
リアーの両手にもパンパンに詰められた袋が二つ。
答えたシアの手にも二つだ。
「いやー!買いすぎてしまった!まさか父さん達の分も選んでくれるとは……!」
「いいじゃないの!息子と娘たちに選んでもらった私服よ!早速明日から着ましょう?」
喜ぶ母の手には服の袋が。父の手には食料などの重い物の袋がある。
「えへへ……風呂上がり、どれ着ましょう……。悩んじゃいます……」
「どれも良いからね。悩んじゃうよな……」
リアーが蕩けたような顔でこちらを見ると頷く。
それでふと、思い出した事があった。
「嫌なら答えなくて良いんだけどさ。
……かつての自分が買ってあげたものとか、リアーはどうしてるんだ?話聞いた感じ、リアーには甘かったと思うんだが……」
「……いいえ、大切な質問です。それは、答えさせてください」
そう言ってリアーはゆっくりと歩みを止める。
自分とシア、父さんも母さんも足を止める。
リアーは大きく息を吸って、吐く。
そして、言葉を紡いだ。
「……父様は、日付を固定する前日。私に全てを語ってくれました。
このイシュリアを統合しようとしていること、時間がずっと巻き戻る事。そして、私は巫女として父様に仕え、その永遠とも呼べる時間を繰り返す存在になること」
「……」
静かに聞く。
何か、リアー……イシュリアと名付けられた子にとって、大事な理由があるはずだ。
「……当然、父様は私を巫女とせずに母様と同じように自由に干渉出来る存在にも出来る、と言いました。
ですが、聞いてしまったのです。もし私を巫女としなければ、父様はどうするのか、と」
「……なんて答えたんだ?」
リアーは悲しげに俯きながら答えた。
「その時は、自分が永遠を繰り返す存在になる、と。
……私と母様を自由にする代償として、父様はステラを元のイシュリアに統合する為だけに自我のない、『装置』のような存在になる、と答えました。
私には、そんなの耐えられませんでした。
あんなに優しくて、人一倍悩んで、苦しんだ父様の末路が……。自我を無くして世界の装置になるなんて、想像したくありませんでした」
「……そうか、巫女の代わりだからな」
自分自身を起点とする以上、それを維持する為の補佐が必要なはずだ。
簡単な話、それを自分一人で受け持つ代わりに自由意志すらない、人でも神でもない、ナニカになってしまうのだろう。
「……私の答えを聞いて、父様は悲しげに言いました。
私を巫女とするならば、時間を固定させるための物以外……即ち、買ってもらった服や魔道具。時を巻き戻すのに支障が出かねない物は、全て今日のうちに存在ごと消す必要がある、と。
本当にいいのか、と聞かれました。
頷いても、父様は永遠を繰り返す事になるのかもしれないのだと、まるで私を巫女から遠ざけるように何回も、何回も問われました」
リアーの顔が悲しみに歪む。
「……それでも、私は。誇りある父様と母様の娘として。
父様と母様には、命ある人として、生きて欲しかった……。
だから、私は私自身の手で自分の物を全てステラから消しました。
たとえ私自身が永遠を繰り返すことになるとしても。それが分かっていないとしても。
父様に、後悔しない結末を、母様と掴んで欲しかった……」
そこで区切ると、自分の方を向いて笑顔を作る。
「……そして、掴んだのです。父様が納得できる結末を、他でもない父様と母様の手で」
「……そうか。じゃあ、一緒に作っていかないとな。
新しい家、新しい服。新しい道具に、新しい空間。リアーが自分で壊しちゃった物を、他でもない自分たちで」
「はい、はいっ……!今度は、皆さんと一緒に作ります……!」
微笑んで、片手に袋をふたつ持つ。
そして、そっとリアーの頭を撫でる。
「……きっと。もう一人の自分も、今のリアーを見たら感動するよ」
「……?何故ですか?」
その問いに、自分は自信を持って答える。
「だって今のリアー、凄くいい笑顔だからさ。きっと自分の子がこんな笑顔なら……親として、これ以上ない幸福だと思うよ」
「……!」
その言葉でリアーは嬉しそうに顔をくしゃくしゃにする。
「父様……見ていますか?リアーは……イシュリアは、今。とても幸せですよ……」
その言葉にふと、真上の空が光る。
強い光だった訳でも、その空から星が良く見えた訳でもない。
それでも、その光はまるでリアーの言葉を肯定しているように感じた。
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