罪切りの魔女と癒傷の魔女
都市の空を飛ぶマリスと夏美。二人は飛翔し続けるが、イブリルの住む場所はおおかた知らされていた。場所は二番街の裏路地の一角で、普通の人なら入らない危険地帯だった。
「さて、到着だ」
「本当に、やるんですよね?」
殺しをする事に慣れない感じがするのか、夏美はきゅっと杖を握る手を強くする。マリスは堂々と立ち、裏路地の中をまっすぐ進んでいく。
夏美もそれについていくと、二人はイブリルの居場所まで進む。
そうしてイブリルを見つけると、彼女は、裏路地の縄張り争いで戦っていた。
「あっははは! みんな氷つけ! あたいの邪魔をするやつはみんな!」
犯罪グループの頭にでもなったつもりか、イブリルは手下を力で従えては別組織の縄張りで敵を凍らせ、暴れ回っていた。
「へぇ、同じ魔法使いか、おい、クソサイコ女」
「あん? 今なんつった……? んっ?」
イブリルがこちらを向くと、その様子を見て、彼女は嗤った。
「ぷっあっははは! お嬢ちゃん、言葉遣いがなってないわよ、私のことは可愛いお姉さんと言ってもらわないと」
「断る。お前みたいな下劣な輩、罵倒で十分だ」
「言うねぇ、クソガキ」
「……どうやら、低俗な魔法使いの愚か者に授業をする必要があるようだ、夏美、構えろ」
「はい!」
二人で杖を構える。するとイブリルは手下に指示をして銃を向けた。
「蜂の巣にしてやりなさい!」
イブリルの言葉で手下が銃を撃つ。それがマリスと夏美に飛んでくるが、銃弾が当たる直前、クロが身構えると、魔力の障壁によって防がれた。
『こんなのどうってことないにゃ!』
「何⁉︎」
「レッスンその一、基本的に飛び道具は魔力バリアで防ぐ。魔力バリアは一般の魔法使いなら普通に覚えている簡単な防御魔法だ。だが、優れた魔法使いにもなると、わざわざ都市のホームセンターで防護バリアを買わなくても、自前の魔力バリアで防御できる」
魔力バリアで全て防ぐと、夏美は余裕そうに杖を構える。すると、杖の先から魔法が展開され、攻撃態勢が整った。
「レッスンその二、基本の攻撃魔法の使用。使う魔法はレベル1の魔法でも構わない。だが、やるからにはその魔法を最大限まで突き詰めて使うこと、敵を確実に、スマートに仕留める」
『ファイアバレット!』
初級魔法であるファイアバレットを唱える。すると出てきた火の球は収束し、文字通りの弾丸のように飛ばされた。炎の線を描きながらそれは飛び、手下のうちの一人の胸元を貫通した。
「えっ?」
傷口が焼けついたのか、ぽっかり空いた穴から血が出ずに、その者は倒れる。
「このクソアマが!」
氷が氷塊となって飛ばされる。それは巨大な塊になって二人に降り注ぐが、マリスが杖を構えると、水晶を光らせ、杖を振るった、次の瞬間、振るった場所の色が反転し、直後、飛んできた氷塊は真っ二つになって切り裂かれた。
「レッスン3、自分の能力を見せる時は相手に悟らせないように、まぁ、私ほどの実力者になれば能力の使い方で誰か特定されるが、だが最初の攻撃をするチャンスは取れる」
それを聞いたイブリル達は一瞬どういうことか疑問に思ったが、その後起きた出来事に、恐怖に震えることとなる。
「が……!」
なんと、氷塊を両断するどころか、手下のうちの一人までも真っ二つにしていた。その光景を見たイブリルの手下は、今までの話を聞いて、ある一つの答えを出す。
「緑色のローブの、金髪のエルフ……そして、切断する能力、まさかお前は……幾多の者を切り裂いてきた大魔法使い、罪切りの魔女!」
「ご名答、私の名前はマリス・ヘイルスタッド、お前らに裁きを下しにきた罪を切る大魔法使いだ」
それを聞いた手下達は恐れ慄いた。イブリルはその意味について詳しくは気づかなかったが、だが彼女からは、只者ではないオーラを感じた。
「あんた、何者なのよさ!」
イブリルが地面を凍らせ、どんどんそれが二人に迫る。だが、その攻撃を夏美が前に立つと、魔法を唱えた。
『ウィンドブロウ!』
これまた簡単な初級レベルの魔法を唱える。するとその風は氷を砕き。二人の周辺を安全にする。
「っ! ガキでもわかる魔法で、どうしてそんな威力が⁉︎」
「単純な話だ、初級の魔法とて、何も鍛えられなくはない。仮に初級魔法しか使えずとも、鍛え続ければ大きな武器になる」
「ガキどものくせして!」
手下が今度は魔力弾を銃で撃とうとする。するとそこに夏美が割り込んだ。
「喰らえっ!」
緑色に優しく光る弾を飛ばし、手下達にぶつける。イブリルには氷の壁で塞がれたが、だが命中した手下達にも、何も起こらず、それどころか元気が溢れ出た。
「なんだ⁉︎ ただの回復魔法か! こけおどしにも程があるぜ!」
「回復魔法で、済めばいいね?」
「あん……ちょっと待て、体が、なんだか熱く⁉︎ ぐわっだんばぼべばぁっ!」
夏美が出した光弾が命中した手下達は、何故か急にボコボコと膨らみだし、やがては体を破裂させた。
「一体……何を⁉︎」
イブリルは目の前の衝撃的な出来事に理解できずに立ち尽くす。すると夏美は答えた。
「私の能力は傷を癒す回復能力。普通なら回復するだけの能力だね。でも、その力を過剰に使って、回復させ続けたら? 溢れ続ける生命力に体がもたなくなって、やがて破裂する」
「イブリルの姉御! エルフの隣の魔法使い、あいつも只者じゃありませんぜ! 奴は、癒しながら傷を与える魔法使い、癒傷の魔女だ!」
「正解、はい拍手ーって、もうここにはほとんど人がいないか」
死体だらけのガラッとした裏路地に夏美とマリスは並ぶ。それを見た手下達は怯えると逃げ出す。
「ひぃいいいっ! あんなのに、勝てるわけがねぇ!」
「おいこら! 逃げんな! くそっ! こうなったら全力でぶっ殺してやるぅうううっ!」
イブリルが氷をあちこちに生やしながら裏路地を侵食する。氷の壁が形成され、やがては二人を飲み込もうとするが、その時、マリスは構えた。
「最後のレッスンだ。魔法使いは常に冷静であること、決して自暴自棄になり、やけになった攻撃をしない、でなければ、無駄に体力を使うだけだ」
するとマリスは杖をもう一度縦に振るい、切り裂いては道を開いた。イブリルへと続く道を作ると、マリスはそれを駆け抜けては彼女の前に立つ。
「なっ⁉︎ 嘘……嘘だ!」
「レッスンは終わりだ、地獄で復習するんだな!『断絶!』」
杖がイブリルに振られる。すると、イブリルの首が空間丸ごとはねられ、転がったのだった。
それを確認すると、マリスは夏美の所に戻る。
「これで依頼は完了だな、案外あっけなかったものだ」
「罪切りの魔女の名前、通るようになって来ましたね」
『まぁそれだけクロたちの活躍も増えて来たってことにゃ」
「このレッスンの内容がいつまで通るのやら、私は心配だ」
倒したイブリルを警察に連絡すると、二人はその場から去っていくのだった。




