7話
私は屋根裏部屋を出て、父親の部屋へと急いだ。
「失礼致します、お父様」
「…、遅いな」
部屋に入ると父親はまだ仕事の最中だった。私の挨拶に対してこちらも見ずボソッと言葉を返す。
どうしよう、リノアスの事話そうかな…?でも昔渋々とはいえ引き取ったものね、話してみる価値はあるかもしれない。
「申し訳ありません、でも屋根裏部屋にリノアス・アルクレハがおりまして、その少年に掃除を手伝っていただきました」
「…?」
父親は怪訝そうな顔でこちらをチラッと見た。
「誰だそいつは…」
「え?お父様が7年前に引き取った戦争孤児ですよ」
「…、はっ、そんなやつは知らんが居てもいなくても変わりはない、どうでもいい」
1週間も頼み込んだって言ってたのに…、本当に記憶の欠片もないの…?この人は国の政治とリリア以外本当にどうでもいいんだなと感じた。
「戦争孤児だなんて惨めなガキが屋根裏部屋にいるのか…、まるでネズミだな」
「なっ…」
私は思わず言い返しそうになった。辛い思いをして5歳という幼さで自分の力で今まで生きてきたのに…、そう思ったからだ。でも今下手に言い返して少しづつ積み重ねたものを失う方が怖い。ここはぐっと堪えた。
「もういい出ていけ、仕事の邪魔だ」
「…はい」
相変わらず冷たく突き放され、私は部屋を出ていった。公爵という圧倒的な権力を持つ父親は外面だけは良いのだろうな…。
さて、リノアスに食事を持ってこうと考えたがどこから調達しよう…。割とこの家の食事の量は丁度いい、無理にあげると今度は私がお腹減っちゃう…。それ覚悟で持って行こうか…そう考えているとリリアに遭遇した。
「あっ、お姉ちゃん!」
「リリア、どうしたの?」
「ちょっとゴミを片付けるのを手伝ってほしいんだ」
「あぁ、良いわよ」
私はリリアに着いてき部屋へ入ると、
「なっ、何これ…?!」
リリアの部屋に入り驚愕した。部屋にはお菓子の空き缶や袋が大量にあったのだ。
「これリリアが全部食べたの…?!」
「うん…、お腹いっぱいになっちゃった、夜ご飯食べ切れるかな…」
確かに最近夕食を食べる時少し苦しそうだった。無理矢理完食してたのか、それに幼さ特有のモチモチなふっくらとした体つきかと思ったが、多分これ太ってる…。
「流石に食べすぎよ…、これ誰に貰ったの?」
「パパとか市民の人とか使用人のお姉さんとか!」
私は片付けている手を止めた。
そっか…、最近私も努力はしてきたし、見る目も少し変わっていることを実感していた。でも結局は父親に可愛がられていないことが全てなのだろう。
「そうなんだ…」
「今度からお姉ちゃんも一緒に食べる?使用人さんも呼んでさ!」
リリアにそう言われて私は思いついた。
「リリアお菓子好き?」
「うん!大好き!」
「じゃあこれからもお菓子たくさん食べていいよ、その代わり夜ご飯食べ切れなかったら私にこっそりちょうだい」
「えっ、いいの?全然いいよ!あげる!」
よし!私は心の中でガッツポーズをした。これでしばらくは食糧難に悩まされることはないはず!ちなみに昼食も、その後お菓子をたくさん食べるからということで、私が余ったものを貰うことになった。
「わあ!ありがとうございます、エレノア様!いいのですか?家族専用の高級料理を頂いて」
「いいのよ、それにむしろ貰ってくれた方が粗末にならなくていいし」
私はその翌日からリノアスに食事を運ぶルーティンが始まった。その運んでリノアスが食事をしている時に二人で話す時間が私にとって毎日の癒しになった。
リノアスと共にいることで初めて楽しいと感じるようになった。
身分の差があるから公では喋れない、でもだからこそ屋根裏部屋で二人っきりなのは特別感があった。
私は生前友達はいない、母親は物心つくまえにいないし、父親には怒られてばかりで会話をした覚えがない。それはここでも同じことだった。
だからリノアスと話す事が初めての特別な経験だった。
それに彼は私が何を話しても最後まで聞いてくれて、互いの意見を尊重して、他愛のない話でも盛り上がった。
そこから数日たったある日…
「ねえリノアス!」
「なんですがエレノア様」
「私たちってもう友達よね?」
「えっ、あー…、エレノア様がそう思って下さるのはとても嬉しいですが、あくまで主人と家来の関係です」
「えー、そんなぁ…、私はそんなこと気にしないのに」
「いえいえそんな、僕がそんなエレノア様をご友人だなんておこがましい事は出来ません、でも僕もエレノア様とお話するのは楽しいですよ」
「うーんそうだけどさ、私にとってあなたは特別な存在なの」
「特別…ですか?」
「うん!初めてなの、こんなに楽しくなれて、二人でいることが安心できるのが、出会って数日だけど、会えてよかったって思うわ!」
私はありのままに思ったことを口にした。
あー、前世でこんな良い人いたら良かったのに。
そう思っていると、リノアスの顔が真っ赤になっているのに気づいた。
「えっ、大丈夫?ここ暑い?」
「いえ…、少し私も…、嬉しくて…」
彼は我に返り咳払いをした。
「すみませんしどろもどろで…、私も…、貴方様に会えて良かったです…!」
「うふふっ、同じね!」
私は嬉しくなった。人生初めての友達が出来たと思ったから。一方的だけど…。
それにしても紳士でも顔を赤らめちゃうのね、ますます勘違いする確率が上がっちゃうじゃない!
私は彼とお話する機会だけは無くならないでほしいと思った。




