6話
「どうしてここの公爵家に…?」
そう聞くと少年は俯いた。
「僕は…、この国の出身ではないのです」
「そうなのですか…?ではなぜこの国へ?」
私はそこまで聞いたがこの少年に何やら深い事情があるのを感じた。
「あっ…、ごめんなさい、無理に言わなくても大丈夫ですよ」
そう言うと、少年はフッと微笑んだ。
「ありがとうございます、エレノア様、でもよろしければ今度は僕の話を聞いて下さいませんか?僕はあなたなら信頼して話せるんです」
信頼、その言葉を聞いた時、私は初めて感じる何かがあるのに気づいた。
今までそんな事言われたこと無かったから。
この感情は必要とされるために重要な気がする。
「…、ありがとう信頼してくれて、もちろん聞くわ」
「ありがとうございます、ではさっきの続きなんですが、僕は元々遠い国の戦争孤児でした。」
「戦争…?」
「ええ、7年前に起きた戦争です、かなり遠い国なのでここの方は知らないでしょう、それで僕はその戦争で肉親も親戚も亡くしました。」
私は胸がズキっとした。私も母親を失った時は胸が張り裂けそうなほど悲しかったからだ。
「そうなんですね…、それはお辛いでしょう…、それでどうされたのですか?」
「住んでいた地域は壊滅しました、でも家族も親戚もいない、拠り所が無かったんです。それで僕は敵の軍隊に見つかりました。普通なら処刑されるんですが、まだ5歳ということもあり、流刑へ減刑されました」
7年前に5歳なら今12歳ということ、エレノアより歳上なんだ…。
「そして流れ着いたのがこの国でした、まだ5歳でした、小さいし理解力も乏しい、僕は前に話した通り、見合う対価を条件に、色々な方に助けて頂きました。」
「そんな、5歳で…」
「ええ、今思えばとんでもなく過酷ですが、とても幼かった僕は、起こること全てを受け入れるしかありませんでした、でもしばらくそんな過酷な暮らしをして、どこか身寄りを探すことが必要だと幼いながら思いました」
「その身寄り先がここだったって事…?」
「そうです、もちろん最初は断られました、まだ5歳に何が出来るのかと、でも必死に頼み込みました、5歳ながらの生存本能って奴ですかね、それで1週間程頼み込んで、渋々受け入れて頂きました」
「それは私のお父様…?」
「ああ、そうです」
「でもなんで今こんな所に?」
「僕は主に雑用を任されていました、しかし周りはきちんと雇われた大人の使用人の方や護衛騎士など、5歳の僕はとても肩身の狭い思いをしていました」
「それでこの屋根裏部屋に?」
「はい、きちんと雇われた身ではありませんから、ハッキリ言って邪魔者に等しい存在です、僕に専用の部屋などありません、だからここをお借りしているんです」
「ここで今までずっと?食料とかは…?」
「僕専用にご飯を作られたりしませんでした、存在が薄かったのかそれともわざとか分かりませんが…、なのでいつも残飯を漁ったりして過ごしていました」
「そんな酷い…」
「そうやって今まで過ごしてきました、すみませんありがとうございますお話を聞いて下さって」
「いえそんな全然いいですよ…」
私はそんな話を聞いて、彼の辛さや精神力に驚いた。話だけでも過酷さが伝わるが、きっと彼は今まで話以上に過酷だっただろう。そして、私はもうひとつ気になる事があった。
「そういえばなんですけど、あなたのお名前は…?」
「あ、言い忘れていましたね、申し遅れました私、リノアス・アルクレハと申します」
「リノアスね、分かったわ」
やっぱりだ、こんな壮絶な過去を持っているけど物語に登場していない人物だ。でもだからこそ登場してない人物は重要なのではないか?重要な人物は私に対する接し方が決まっている気がする。
それに脇役のような惨めな扱いのエレノアと彼は同等にいる気がする。だからか居心地が良い。
「ねぇリノアス、良かったら私があなたに食料とか持ってくるわ」
「えっ、そんな悪いですよ、エレノア様にそんな事…」
「いいの、私がそうしたいのよ、それに私困ってる人は見捨てたくないの」
「エレノア様…、本当にお優しいのですね、ではお言葉に甘えさせて頂きます」
私がこう申し出たのは父親に代わっての謝罪の意でもある。そして使用人達に対しても…。
「あの、エレノア様、そういえば公爵様にここの清掃を言い渡されているんですよね?」
「あっ!そうだったどうしよう…のんびりしすぎた…!」
せっかく信頼されようとしたのに、遅れたらなんて言われるだろう…。
「ははっ、お転婆で可愛いですね、良ければお手伝いしますよ」
「えっ、かわっ…」
いきなりそう言われてドキッとしたが現実世界でも外国の紳士ならよく言う言葉なのかもしれない…。勘違いしても恥ずかしいし…。
「あーっと、ありがとうございます、ではお言葉に甘えて…」
そして私たちは急いで掃除に取り掛かった。リノアスが重い荷物などを端に退けてくれたので私は掃き掃除をした。さすが紳士だと思った。
そして協力したおかげで早く掃除が済んだ。
「ありがとうリノアス!とっても助かったわ、とりあえず早く降りないお父様に怒られちゃう…、じゃあありがとうリノアス!」
私は急いで階段を降りようとした。すると、
「待ってくださいエレノア様」
リノアスが呼び止めてきた。
「どうしたの?」
「…、よろしかったらまた二人でお話しませんか…?」
彼はモジモジしながら言った。
「もちろんよ、貴方とお話するの楽しいもの!またここに来るわね」
「…!ありがとうございます、すみませんお急ぎのところ呼び止めて」
「いいのよ気にしないで!じゃあまたね」
私はそう言い階段を降りた。
それにしても紳士って子供の頃から紳士なのね、外国の方は凄いなぁ、あんな事誰にでもするんだろうな、そしたら勘違いしちゃいそう。
私は感心しながら父親の部屋へと急いだ。




