3話
私が10歳のエレノアに転生して思ったことは、酷く私に似ているという事だ。
物語の中じゃ、主人公の姉で悪役令嬢という立ち位置なのに、脇役のモブに近い扱いだった。
物語で過去の描写がなかった訳じゃない、でも明かされるのは重要人物で、エレノアは明かされていない。だからこの物語の読者は過去を明かされた人物に同情しさらに信仰し、さらには悪役令嬢を蔑んだ目で見るようになった。
多くのものはそうだろう。
でも私はそうじゃなくて、なんでエレノアがこうなるのか、本当に悪役でしか生きていく術がないのか、そう思った。
だから今10歳のエレノアとして生きることはその答えだ。知ることができる。私が朝倉燈として生きていた頃抱いていた淡い願いは叶うのか。でも叶っていてほしくもない。
でも答えは叶っていた。
朝倉燈は親から愛されていなかった。エレノア・ヴァレンティアも親から愛されていなかった。
小さい頃はそうだったら同じで嬉しいと思っていた。けど今は、転生したならエレノアとして幸せに暮らしていきたいから叶わないでほしかった。
だから転生して嘆いた。こんな日々をまた送らねばならないのかと。
朝倉燈も幼くして母を亡くし、親は父親のみだった。学校から帰って、
「今日は学校どうだった?」
なんて聞かれない。今の子はそれすらも鬱陶しいように感じるのかもしれない。
けど私はそんな鬱陶しさすら羨ましかった。
だから努力した。勉強も家事も料理も何もかも全部。でも何をやっても父親はいつもこう言った。
エレノアの未来を変えたい。愛されたい。必要とされて幸せな日々を送りたい。あんな前世はもう嫌なんだ。
出来ることはなんでもやる。
「リリア、勉強教えるよ」
「本当?じゃあここ分からないから教えて!」
「うん!ここはねー」
「はは、なんだここは前教えただろう?」
父親はニコニコしながらリリアに話しかける。
「まあまだ小さいから仕方ないな!」
「もう!パパってば!リリアもうお勉強出来るんだもん!だからもうお姉さんだよ!」
ねぇ、私だってまだ子供だよ?確かに中身は転生した17歳だけど、まだ未成年だよ?それに転生してなくても10歳だよ、リリアよりは確かに大きいけど、まだまだ子供だよ、甘えたいよ…。ねぇ、こっち見てよ…。
「何やってる、リリアが分からないって言ってるだろ、早く教えてやれ」
「…はい」
もっと…
「お嬢様急にお菓子作りだなんて…、どうしたんです…?」
「なんかやってみたくなっちゃった、興味が湧いたのよ!」
前世でもやったな、喜んで欲しくて。
「わあ!お姉ちゃんお菓子作れたの!」
リリアは笑ってくれる。さすが主人公だな。
「リリア、気をつけろ、変な味がしたり不味かったりしたら遠慮なく捨てていいぞ。俺は要らないから何の異変もなければ自由に食べろ。」
父親はこっちも見ずに、私にはなんの言葉も掛けずに部屋を出ていった。
「え、うん…」
もっと自発的に…
「お父様、お仕事お疲れ様です、何かお手伝い出来ることはありますか?」
「…なんの気まぐれだ」
「いえ、私も公爵家の令嬢として自覚を持とうと…」
「はぁ、仕事の邪魔だ、お前に書類を持たせたら汚くなる、」
あ、まさか言うのかな。あの時と同じことを。
前世の父親、朝倉文和も、今世の父親、アメレッド・ヴァレンティアもこう言った。
『こんなものか…、余計なことをするな、俺にとってお前の行動も存在も全て無駄だ』
「はい…」
私は父親の部屋を出た。そして廊下を進んで、誰にも気づかれないような隅の影でうずくまった。
あぁ神様、私は幸せになりたいだけです。愛されたいだけなんです…。前世も今世もどうしてこうなんですか…?もう今を生きる事が精一杯なんです。幸せになるためにどうすればいいですか…?




